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第379話

 わざわざ部屋を出て行くなんて、何かやましいことがあるんだろうか。いつもはテレビがついていて騒がしいとかでなければ、その場で電話をとるのに。気になって仕方ない。  盗み聞きは良くない、と思いつつ、トイレに行くフリをして、そっとリビングの扉の方へ行く。彼はリビングを出てすぐの廊下で話していたのか、扉の前まで来れば、聞き取りづらいが話し声を聞くことができた。 『――うん、楽しみだよ。明日も十二時なら大丈夫。……そう、二時にはそこ出ないと帰ってきちゃうから』 「っ……」 『ああ、うん。……じゃあ、また明日』  カチャっと音を立てて目の前の扉が開き、驚いてぶわっと冷や汗をかく。 「……聞いてたの?」 「聞いてないよ! トイレに行こうと思って……」 「そっか。ごめんね、打ち合わせしてたら長くなっちゃった」  そう言って彼は部屋に入るとキッチンの方へ行った。 (嘘つき……)  心臓がバクバクして、足元がフラフラする。ショックのせいか、全身から体温が遠退いていく感じがして凄く寒い。  トイレに行ってからリビングに戻ると彼はココアを入れてくれていた。甘くて温かくて、それを飲むと少しだけ気持ちが落ち着く。 「大丈夫? 顔色凄い悪いね」 「……俺、やっぱりちょっと部屋で休んでる」 「うん。カップ片付けたら行くから、俺の部屋で寝てて」 「……うん」  まだ少しココアが残っているカップを彼に渡して、彼の部屋のベッドに潜る。そこは、いじわるで優しい正和さんの匂いがして、苦しくなった。じわじわと浮かんできた涙が瞳を濡らし、頬を伝って零れ落ちる。

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