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第380話

「純?」 「っ……」  布団を軽く捲られて、震えた睫毛についた涙を指でそっと拭われた。 (苦しい……もう嫌だ、苦しい。正和さんなんか……大嫌いだ)  自分で思ったことにさらに悲しくなってきて、涙をボロボロ零す。  彼はそっと隣に入ってきて優しく抱き締めてくれるけど、今の彼にそうされても全然落ち着かなくて、動悸は激しくなるばかりだ。 「つらい?」 「……っん」 「体冷えてるね。ゆっくり休んで」  頭を優しく撫でてくれる手は温かい。それなのに、明日会う人にもそうしてるんだって思ったら気持ち悪くなった。 「愛してるよ、純」 (っ……嘘つき)  本当、最悪だ。正和さんと出会わなければ良かった。なんて、今までの彼とのことを全否定するのもどうかと思うけど、とにかく苦しくて、消えてなくなりたかった。  それでもやっぱり彼のことは嫌いになれなくて。とってもとっても大好きで、それだから尚のこと苦しくなった。 *  今日も正和さんは俺が家を出る時間に出かけていった。俺のことをとても心配してくれていたけど、俺は平静を装って家を出てきたので、今は全く心配していないだろう。  昨日よりは幾分か気持ちも落ち着いている。というより、ショックなことが何日も続いていて感覚が麻痺して来たのかもしれない。  お弁当も食べ終わってもうすぐ午後の授業が始まる。きっと今頃、彼は昨日の電話相手とお楽しみ中なのだろう。 「なあ、なあ」 「なに?」  机に教科書を準備して、窓の外をぼーっと眺めていたら、前席の拓人が真剣な面持ちでこちらを向いた。

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