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第381話
「言おうか凄い悩んだんだけどさ……」
「うん」
「……純の彼氏、他の男子と歩いてるとこ見かけたんだけど……大丈夫なの?」
「え……」
拓人の言葉に思わず固まって、声が出なくなる。彼が浮気をしているんだろう、ということはなんとなくわかっていた。けれど、それを第三者の口から実際に知らされるとショックが大きい。
会っている、というのを見たわけではないから、信じたいと思う気持ちも少なからずあった。
「それ……って、どんな人?」
震える声で拓人に質問すれば、彼は思い返すように顎に手を当てる仕草をした。
「ん~、黒髪で大人しそうな子? 純と似たタイプの可愛い系」
「俺は……可愛くないし。てか、それいつの話?」
「一昨日だよ。休みだから家族がこっち来てて、昼頃皆で買い物行ったんだわ。そしたら妹がイケメンいるってんで、見てみたら、お前の彼氏。他の男子と楽しそうにしてたから、びっくりしたわ」
「それ、ほんと……? 人違いじゃなくて?」
少し興奮気味に話す拓人を信じていないわけではなく、俺がそんな事実を信じたくなくて、確認するように聞き返す。
「間違いないって。あんな身長であんな顔、そうそういないから間違えないし。あ、そうだ。ちょっと待ってて」
彼はスマホをいじって誰かにチャットを送る。
「妹が昨日盗撮してた写真、送ってもらうから、後で純にも送るわ」
「盗撮って……」
「やめろって言ってんだけど、イケメン見かけるとすぐ撮るんだよ。まあ、そこは見逃して」
彼がそう言って顔の前で手を合わせるのと同時に五時間目始まりのチャイムが鳴る。落ち着かない気持ちのまま授業を受け、六時間目もずっと上の空でノートもほとんどとれなかった。
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