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第383話
ベッドの寝心地はとても良いはずなのに、夜はあまり眠れなくて、ご飯も食べていないせいか今朝の体調は凄く悪い。今日はマラソン大会で、このまま登校しても保健室で過ごすことになるだけなので、学校には欠席すると伝えた。
正和さんは今日もシゴトだそうで、朝からスーツを着て出かける支度をしている。
「お昼、冷蔵庫に入れておくから、ちゃんと食べてね」
そう言って、コートを羽織った彼がリビングを出て、玄関に向かったので俺もついて行く。
「……この匂い、嫌い」
「そっかぁ、残念。みんなには評判良くて人気なんだけどなー」
(人気……)
「純が嫌いならやめるよ。ごめんね」
そう言って、彼は靴を履き、車の鍵を持って玄関扉のドアノブに手をかける。
「行ってきます……純?」
正和さんに、ぎゅっとしがみつけば、彼は不思議そうに俺の名前を呼んだ。俺も寝不足で、疲れて思考が回らなかったんだと思う。気づけばそんなことをして、駄々を捏ねる子供のように呟いた。
「……行っちゃ、やだ」
「やだって言われても……」
「……いい子にするから、行かないで。いうこと……きくから」
彼が他の子の所へ行くのを分かっているのに、そのまま見過ごすのは限界だった。胸が苦しくて我慢できない。
最初に浮気をしてしまったのは俺だし、それで彼が傷付いて他人に惹かれるのもわかるけど、これくらい言う権利はあるはずだ。
「……じゃあ、俺が帰ってくるまでいい子に待ってて」
けれど、彼は困った顔をして俺の体を離すと、頭をぽんぽんと撫でて出かけていった。
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