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第384話
なんだか力が抜けてしまって、その場にぺたりと座り込む。本当に仕事なら仕方ない。けれど、正和さんは浮気相手の男の子に会いに行くのだ。体調の悪い恋人を置いてまで行ってしまうというのは、もはや浮気ですらなく本気なんじゃないだろうか。
(もう、だめなのかな……)
そう思ったら視界がぼやけて、泣きたくないのに、涙がポロポロ零れて頬を濡らした。
「っ……ひっ、く……うぅぅっ」
泣いても泣いても胸は苦しいままで、心の痛みはどんどん増して、膿んだようにじくじくと膨れ上がる。
家出してしまおうか。ふとそんなことを思って、玄関をチラッと見上げる。最近は内側からの鍵もかけられていないから、家出しようと思えばできる。
そのまま住める状態で残してあるのかは分からないけれど、自分の家に帰るのがいいかもしれない。
立ち上がって扉を開けるとすんなり開いて、ヒンヤリした風が全身をスーッと撫でていく。
(寒い……)
俺が家を出て行ったら、正和さんはどう思うんだろう。心配してくれるのかな。それとも呆れるんだろうか。清々して、新しい子と暮らし始めたりして。
『……じゃあ、俺が帰ってくるまでいい子に待ってて』
「っ……」
先ほどの彼の言葉を思い返して、踏み出そうとした足をその場に下ろす。
浮気しているのはほぼ確定だと思うけど、まだ彼に直接聞いたわけではないのだ。もしかしたら、彼の親戚とか知り合いの子とかで、俺の思い違いの可能性もなくはない。
(……やっぱり、やめとこ)
中に入って扉をそっと閉め、フラフラとリビングへ向かって廊下を歩く。新しいベッドは居心地が悪いからリビングのソファに横たわって、体を小さく丸めた。
「ひっ、く、っ……まさかずさん……っ、うぅ、帰って、きて……っ、ふ、っぅ」
しばらく泣いていたら、泣き疲れてだんだん眠たくなってくる。このまま何も考えずにずっと眠っていたい、そう思いながら意識を手放した。
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