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第386話

 こんなこと聞きづらいし、真実を知るのが怖くて、声が震えて小さくなる。彼に抱きつく手にも思わず、ぎゅっと力が入る。返事を聞くのが怖くて、彼の反応が怖くて、勇気を振り絞って言ったのに、正和さんはクスクス笑って受け流した。 「そんなわけないでしょ」 「っ……でも」 「純のこと大好きなのにそんなことするわけないじゃん」  そう言って俺の後頭部に手を回して、俺の顔を引き寄せると額にキスを落とす。 (……嘘つき)  まるで誤魔化すかのようなそのキスは虚しいだけだ。 「友達が……正和さんが男の子と一緒にいるとこ、見かけたって」 「……うーん、人違いじゃないのー?」  少し間をおいたあと、とぼけるような声でそう言う正和さん。あくまでしらを切るつもりらしい。  俺はポケットからスマホを出して、拓人から送ってもらった写真を表示する。  「……これ、正和さんでしょ」  そう言って、少年と一緒にいた時の写真を突きつければ、彼はばつが悪そうに頭をかいた。 「あー……えっと」  言葉に窮して黙ってしまった彼を見て確信する。 (やっぱり、そうなんだ)  胸が苦しくなって、唇をぎゅっと噛んで立ち上がり、彼を一瞥してリビングを飛び出した。 「あ、待って、純」 (嘘つき……正和さんなんて大嫌いだ)  しかし、廊下に出た所で捕まってしまい、後ろからきつく抱きしめられる。逃げようと暴れても彼は離してくれなくて、涙をボロボロ零しながらその場に腰を落とした。 「やだ……離してよ。もうやだ。正和さんの言う通り罰だって受けたのに、こんな……こんなっ。そりゃ、俺が悪かったけどさ、でもだからってこんなの……俺だってしたくてしたわけじゃないのにっ」

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