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第387話

 彼は何も言わなくて、抱き締める手にぎゅっと力を込めてくる。 「俺が悪かったし、凄く反省してる、し……っ、だけどっ……毎日、行くなよ……やるなら、分からないようにやれよぉ……嫌いになったんなら、そう言えばいいじゃん……っ、も、別れよ」 「純」  静かに話を聞いていた彼が咎めるように俺の名前を呼んだ。けれど、限界まで我慢していた気持ちは、一度溢れ出したら止めることなんてできなくて。 「無理だったんだよ、最初から。……正和さんと会わなきゃ良かった……好きにならなきゃ良かった」 「純! 何でそういうこと言うの」 「っ……」  正和さんは声を荒げてそう言った後、俺の肩を掴んで無理やり彼の方を向かせた。 「言って良い事と悪い事ってあるよね」 「だっ、て……」  低い声音で、凄く怒った口調で冷たく言う彼に、震え上がって唇をぎゅっと噛む。 「それに俺、浮気なんてしてないよ。ちゃんと仕事にも行ってた」 「うそだ……っ、うそだ」  写真まであって、あんな風に焦った態度をとったくせに、今更そんな言葉なんて信用できないし、言い訳にしか聞こえない。 「……うん、仕事っていうのは午前中だけだけどね。でも嘘はついてない」 「っ……」  それなら、午後は何をしていたんだろう。まさか、二人きりであんなに楽しそうに話していたのに、友達といたとでも言うんだろうか。 「じゃあ午後は――」

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