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第388話

「午後は結婚式の打ち合わせしてたの」 「けっこん、しき」  予想外の言葉に頭の中が真っ白になって、彼の言葉を反芻する。 (結婚って……誰と、誰が? 正和さんが誰かと……?)  写真に写っていた可愛らしい少年とするんだろうか。それとも、世間体を気にして、他の女性と身を固めることにしたんだろうか。 「とりあえず部屋行って話そう? ここだと風邪引いちゃうよ」  彼はそう言って、俺を立たせようとするが、体が震えて力が入らない。 「誰と……するの?」 「なにが?」 「結婚って誰とするの? 写真の子とするの?」 「誰って純以外いないでしょ。本気で言ってるなら怒るよ」 「おれ、と……」  俺の聞き間違いなんだろうか。今までそんな話全く出ていなかったし、突然過ぎて話についていけない。 「……うん、来月旅行でしょ? その時しようと思って、パスポート作りに行った頃から、いろいろ準備してたんだ」 (去年、から……?) 「それなのに、純ってば浮気してるし、困っちゃうよねー。準備再開したけど、あと一ヶ月しかないから、ちょっと慌ただしくて」  彼の言っていることはだいたい理解できた。だけど、それなら写真の子はいったい誰なんだろう。そんな俺の思いを悟ったのか、彼は俺の疑問に答えてくれる。 「一緒にいた人はカメラマンだよ。俺と純の写真を撮るのに打ち合わせしてたの」 「でも、楽しそうに……っ」 「そりゃー、純との結婚式だし、楽しみに決まってるじゃん」  嬉しそうに話す正和さんは、あの写真に写っていた時と同じ表情だった。正和さんの話が嘘ではないことに安心して、胸がじんわり温かくなる。 「……でも、こんなに若いのに本当にカメラマンなの?」  見た目は俺と同じか、もしかしたら俺より年下だ。若すぎる見た目に本当に撮れるのか疑念を抱けば、彼はあはは、と軽く笑った。

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