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第390話
それなら今まで怪しかったのは、全部仕返しするためにわざとやっていたということになるんだろうか。
「……ほん、とに? ほんとに、浮気してないの?」
「本当だって言ってるじゃん。それに浮気するなら、もっと純にバレないようにうまくやるよ。学校行ってる間とか、一人の時間はたくさんあるんだし」
「っ……」
「まあ、純と違ってしないけど」
嫌みっぽくそう言った彼は、俺の頭を優しく撫でてその手を腰に回してくる。
「そう、だったんだ……」
「どう? 俺の気持ち少しはわかった?」
「……良か、った……っ」
安心したら再び涙が溢れてきて、嗚咽をもらしながら肩を震わせた。けれど、正和さんの冷たくて意地悪な声音に一瞬で背筋が凍る。
「ふふ、純は良かったよねぇ」
「っ……」
「あーあ、俺も純の冗談だったら良かったのになぁ」
そう言って目をスーッと細めた彼は軽く言っているけれど、本当にそう思っているのだろう。俺が悲しい思いをしたのと同じように辛い思いをして、きっと今だって傷ついたままだ。
「……ごめん、なさい」
「まあ、いまさら責めても仕方ないしね。俺も気が晴れたし、これからは優しくするから純もちゃんとしてね」
彼は腰に回していた手で体をそっと引き寄せて、俺の額にキスを落とす。
「ん、ごめんなさい。もう、二度としません」
「うん、じゃあ仲直り。……だけど、一つ聞いていい? 何であの時俺のこと呼ばなかったの? そこだけが理解できないんだけど」
あの時、と言うのは芳文さんにキスされそうになった時のことで間違いないだろう。でも、何で、と言われても言葉に詰まる。
「――――」
「純。責めてるわけじゃないから教えて」
けれど、彼はちゃんと聞こうとしてくれてるし、優しく促すように名前を呼ばれて、徐に口を開いた。
「……近くにいるのに助けてくれないのは……そういうことだと思って」
「そういうことって?」
「もう助ける気はないんだって。正和さんにとって、俺は迷惑なんだって思ったら……っ」
あの時の事を思い出すと、とても悲しくなってきて、瞳にじわりと涙が浮かぶ。そんな俺の背中を彼は優しくさすってくれて、宥めるようにゆっくり言葉を発した。
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