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第391話

「そんなこと思うわけないでしょ。何でそんな風に――」  正和さんがそんなことを思うわけがないのはわかっている。わかっているつもりだった。だけど、自分の性格なのか、育った環境のせいなのか、どうしても悪い方へ悪い方へ考えてしまうのだ。  彼の言葉を遮るように、声を絞り出す。 「俺は……子供の時甘えられるような環境じゃなかったから、そういう時、どうしたらいいか全然わかんない、し……」 「だからって、俺を呼ぶことくらいできるでしょ。本当に俺のこと好きだったら、普通真っ先に俺に助けを求めるんじゃない?」 「っ……だって、あんな風に怒ってる正和さんに声をかけるなんてできないし、拒否されたら、嫌われたら……って思ったら、言う勇気なんて……っ」 「へえ?」  彼は面白くなさそうに短く返事をするけれど、背中をさすってくれる手は変わらず優しい。 「そりゃ、心の中では正和さんの名前たくさん呼んだよ! だけど……っ、だけど……言えるわけ、ないじゃんか……」  じわり、じわり、と浮かんだ涙がポタポタと膝に零れ落ちて、しゃくり上げながら俯いた。 「拒絶されるのは……もう、嫌だ」  ぼそりと小さな声で呟けば、彼は俺の顎を掬って目をジッと合わせてくる。 「……もうってことは前にもあった? 俺、いつそんなことした?」 「正和さんじゃなくて……俺の、家族」 「そういえば、純の家族の話ってあまり聞いてなかったよね。……いま、聞いてもいい?」  膝の上できつく握り締めていたそれぞれの手を、包み込むようにぎゅっと握られて、心臓がドクンと高鳴る。 「――――」 「無理に、とは言わないけど、俺は純のこともっと知りたい。それに、これから一緒に暮らしてく上で、知っておかないとまたお互い嫌な想いすると思うよ」  そう言って、手を包み込んだまま、俺の目をジッと見つめた。そんな風に言われてしまったら、話さないわけにいかない。それに、彼の言うとおり、いずれはきちんと話すべきなんだろう。  いいタイミングなのかもしれない、と唇をぎゅっと噛んで、頭の中を整理する。

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