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第398話
「何が?」
「……なんでもないよ。可愛いこと言っても、旅行までしないからね」
なんだか意味が分からないけど、ご機嫌みたいだから放っておくことにした。
「そういや、来週テストだよね。八十点以下ならお仕置きって言ったの覚えてる?」
「っ……勉強してるし」
一応。だけど、数学だけは点を取れる気がしない。
「ならいいけど」
正和さんはクスクス笑って席を立つと、キッチンから苺を持ってきてくれる。種を覆うように実が盛り上がっていて、綺麗な赤色をした苺は、とっても美味しそうだ。
食べ終わった食器をよけて、大好物のそれに手を伸ばす。
「全教科ちゃんととれそう?」
「うっ……数学だけ、あとで教えてください」
「……見返りは?」
「え?」
「お礼に何してくれるの?」
正和さんはニヤニヤしながら、スーッと細めた目でジッと見つめてくる。まさか、そんなことを言われるとは思っていなかったから、何をしたらいいのか全く出てこない。
「え、あ、うぅ……き、キスとか?」
吃りながら答えれば、正和さんはわざとらしく眉を上げて「へえ?」と呟いた。
「キスしてくれるんだ? 凄いやつ?」
「う、うん」
「それは楽しみ」
ニヤリと笑った正和さんの表情 にぞくりと震えて、視線を逸らす。
もしかして、お礼ならご飯作るとかでも良かったんじゃ……? なんか、間違ったかも……。
だけど、今さら訂正できる雰囲気でもないし、このまま覚悟を決めるしかなさそうだ。
「ごちそうさまでした」
「教えてあげるから先に部屋行ってて。片付けてから行くから」
「……うん」
友達に頼めば良かったかな……。でも教え方は上手くて、凄くわかりやすいんだよな……。
歯磨きをしてから、勉強道具を持って部屋へ行く。新しいベッドに違和感を覚えつつ、テーブルに問題集を広げて座り、正和さんを待った。これから勉強するというのに『お礼のキス』の方が気になってしまって落ち着かない。
まあ、ずっとキスとかしてなかったし、これはこれで良いかもしれない、なんて思ったり。
……いや、ウソウソ、冗談。教えてもらうお礼としてするのであって、別に嬉しくなんかない。
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