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第399話

 そんなことを考えながら一人で赤面して、参考書に書いてある公式を呪文のように唱える。そんな状態では頭に全然入ってこないのだが、気持ちはいくらか落ち着いた。 「お待たせ。暗記してるの? それなら――」  正和さんは解説不要な公式でさえ、語呂合わせのようにわかりやすく教えてくれる。今度は真面目に覚えようと一生懸命取り組んで、問題集も正和さんに聞きながら解いていった。  正和さんの説明を聞くと、ややこしかった問題も驚くほどスラスラ解けて、応用までできるようになる。なんだか自分まで頭が良くなったような気がしてして、楽しかった。 「やればできるじゃん」 「……これでも一年の時は成績良かったし」 「知ってる。いつも学年十位内に入ってたよね」  そうだ。すっかり忘れていたけど、正和さんは俺のストーカーだったんだ。でも、変なところばかりじゃなくて、そういう所もちゃんと見ていてくれたのは少し嬉しい。なんて、こんなこと思うのは、感化されすぎな気もするけど。 「じゃあ、一年生の時より成績上がったら、ご褒美あげようか」 「ご褒美……?」 「ふふ、なんでもいいよ。一つだけ純のお願い聞いてあげる」  そう言って楽しそうに笑った。  本当になんでも叶えてくれるんだろうか。そうだとしたら、学校もこれからもっと楽しくなりそうだ。……何をお願いするかは決まってないけれど。 「……テスト、頑張る」 「お利口な子は俺も好きだよ」  頭をポンポンと撫でられて目を伏せれば、正和さんは問題集をパタリと閉じる。 「じゃあ、今日の授業料ちょうだい。キスの時間は十パーセントね」 「っ……十パー?」 「今日は一時間教えたから、一時間の十パー」  一時間の十パーセントということは六分。そんなに長い間キスをするのだろうか。 「じゅ、授業料、高過ぎない……?」 「そうかなー。払えない?」 「っ……払えるし」 「おいで」  クスッと笑った正和さんに手を引かれて、膝の上に跨がると恥ずかしくて顔が火照った。こうして改まってするキスというのは、緊張してドキドキしてくる。

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