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第410話

「純以外にはしないでしょ」 「でも普通、こんな年下にしないじゃん」 「……そういうこと言うなら指輪買いに行かない」  ツン、と冷たい声音で言われて背中がスーッと冷えていく。 「っ……ごめんなさい」  少し怒った顔をしている正和さんに慌てて謝れば、彼はこちらに流し目を送って、軽くため息をついた。 「――――」 「……調子に、乗りました」 「まあ、純だって十五も年上の男に変なことされるのが好きなんだもんねー。人のこと言えないでしょ」 「~~っ、ごめんなさい。もう言わないから……怒んないで……っ」  嫌味っぽく言い返してくる正和さんを涙目で見上げたら、彼は目をスーッと細めて俺の頭をポンポンと撫でる。 「今日寒いからコート着ておいで」 「……うん」  暖かい格好をして戻ると、正和さんはいつも通りの雰囲気に戻っていて、優しく手を引かれて家を出た。  仕事の話を聞いたり、学校での話をしたりして、車を四十分ほど走らせると、お洒落なビルが並んだ通りに出て、近くの立体駐車場に車を停める。  そんなに遠くはないけれど、土曜日とあって道がとても混んでいたので、ずいぶんと時間がかかってしまった。 「あそこだよ」  正和さんはそう言って指差したあと、つとめて自然に俺の手を握る。こんな人通りの多いところで真っ昼間から、手を繋ぐなんて恥ずかしいけれど、なんだか嬉しかった。 「綺麗だね」 「最近こっちに移転したんだって」 「ふーん」  信号待ちしながら、立派そうなその建物をじっと観察する。入口にドアマンがいて、なんだか入りづらそうな雰囲気だ。ちゃんとした服装で着て良かった、なんて思いながら信号を渡り、ドアマンに軽く会釈をして店内に入る。  ショーケースには高そうなジュエリーがズラリと並んでおり、緊張して辺りを見回していたら、正和さんに少し笑われてしまった。  すぐに女性の店員らしき人がこちらに歩いてきて、正和さんに挨拶すると奥の個室に通される。落ち着いた雰囲気の部屋に少しホッとしながら席に着けば、正和さんに手が俺の太ももに置かれて少しドキッとした。

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