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第411話
「ご希望の色や形はありますか?」
にこやかに接客してくれる女性の言葉をぼーっと聞いていたら、正和さんが再度俺に聞いてくる。
「どんなのが好き?」
「え、俺は……よくわかんない……」
「ではいくつかお持ちいたしますね」
そう言って女性が部屋を出て行くと、正和さんと二人っきりになって、静まり返った部屋でソワソワしながら待った。
「どうしよう、緊張する」
「俺たちしかいないし、くつろいでて良いよ」
ドキドキして震える手をぎゅっと握り締めれば、クスクス笑った正和さんに優しく手を握られた。
しばらくすると暖かい飲み物とお菓子が出てきて、幾分か緊張が解ける。
「違うタイプのリングをいくつかお持ちしました」
細いもの、厚みのあるもの、石が入ったもの、少しお洒落な形をしたもの、指輪といってもいろいろあるんだなぁ、なんて思いながらまじまじと眺めた。
「どうぞ、つけてみてください」
「……どれがいいんだろう」
「指にはめてみたら?」
そう言われて、自分のつけていた指輪を外し、一番シンプルな指輪を恐る恐る手に取る。そっとはめれば、スッと指に馴染んでサイズはぴったりだった。
「こちらは丸みを帯びたシンプルなデザインですので、馴染みやすく普段使いしやすいタイプとなっております」
店員の言葉を軽く聞き流して、手をひらひら回転させながら表と裏からじっくり見る。
「――こちらのエタニティですと、傷が目立ちにくいのでいつまでも輝きが楽しめます。他にはないデザインで人気のタイプとなっております」
勧められるがまま次の指輪をつけてみるけれど、一周ぐるっと石がついているそれは、キラキラし過ぎて普段使いにはあまり向かなそうだ。すぐに外してトレイに戻す。
正和さんはどういうのが良いんだろう。アクセサリーは好きじゃないって言ってたからシンプルなほうが良いだろうか。
「正和さんはつけてみないの……?」
「純が好きなの選んでいいよ」
「んー……、どれがいいかわかんない」
そう言えば、店員が説明を交えていろんな指輪を勧めてくるけれど、正直そんな説明はどうでも良かった。それを察したのか、店員はにこにこしながら最初に試着した指輪を手に取る。
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