411 / 494

第411話

「ご希望の色や形はありますか?」  にこやかに接客してくれる女性の言葉をぼーっと聞いていたら、正和さんが再度俺に聞いてくる。 「どんなのが好き?」 「え、俺は……よくわかんない……」 「ではいくつかお持ちいたしますね」  そう言って女性が部屋を出て行くと、正和さんと二人っきりになって、静まり返った部屋でソワソワしながら待った。 「どうしよう、緊張する」 「俺たちしかいないし、くつろいでて良いよ」  ドキドキして震える手をぎゅっと握り締めれば、クスクス笑った正和さんに優しく手を握られた。  しばらくすると暖かい飲み物とお菓子が出てきて、幾分か緊張が解ける。 「違うタイプのリングをいくつかお持ちしました」  細いもの、厚みのあるもの、石が入ったもの、少しお洒落な形をしたもの、指輪といってもいろいろあるんだなぁ、なんて思いながらまじまじと眺めた。 「どうぞ、つけてみてください」 「……どれがいいんだろう」 「指にはめてみたら?」  そう言われて、自分のつけていた指輪を外し、一番シンプルな指輪を恐る恐る手に取る。そっとはめれば、スッと指に馴染んでサイズはぴったりだった。 「こちらは丸みを帯びたシンプルなデザインですので、馴染みやすく普段使いしやすいタイプとなっております」  店員の言葉を軽く聞き流して、手をひらひら回転させながら表と裏からじっくり見る。 「――こちらのエタニティですと、傷が目立ちにくいのでいつまでも輝きが楽しめます。他にはないデザインで人気のタイプとなっております」  勧められるがまま次の指輪をつけてみるけれど、一周ぐるっと石がついているそれは、キラキラし過ぎて普段使いにはあまり向かなそうだ。すぐに外してトレイに戻す。  正和さんはどういうのが良いんだろう。アクセサリーは好きじゃないって言ってたからシンプルなほうが良いだろうか。 「正和さんはつけてみないの……?」 「純が好きなの選んでいいよ」 「んー……、どれがいいかわかんない」  そう言えば、店員が説明を交えていろんな指輪を勧めてくるけれど、正直そんな説明はどうでも良かった。それを察したのか、店員はにこにこしながら最初に試着した指輪を手に取る。

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!