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第413話
「どうする?」
「……名前は入れたい、かも」
「刻印する場合、三週間ほどお時間いただきますがよろしいでしょうか?」
「お願いします」
「かしこまりました。少々お待ちください」
指輪選びが終わって緊張が解けたのか、肩の力が抜けて、ようやく出されていた飲み物に手をつける。すっかり冷めてしまったそれはフルーティーな香りの紅茶で、とても上品な味がした。
刻印する文字はどうしようか悩んだけれど、シンプルに二人のイニシャルをとって「M&J」にした。
正和さんが紙にいろいろ記入しているのを見ながら店員の説明を聞いて、サイズの違う二つの指輪をちらりと見る。
「サイズ直しできないってことは、成長したらつけられなくなるのかな……」
「でも純、最近伸びてないじゃん」
「っ……そうだけど……!」
「ふふ、もしサイズ合わなくなったら、記念日にまた買いにこようか」
そう言って優しく微笑んだ彼にコクリと頷けば、店員もにっこり笑った。
まだあまり実感はないけれど、お揃いの指輪を着けられることに、じわじわと嬉しさがこみ上げてきて頬が緩む。
しかし、浮き立った気持ちで店を出たら、正和さんがとんでもないことを言い出した。
「じゃあ、次はドレス選びだね」
「は……ドレス……? ドレスってなんの?」
「ウェディングドレスでしょ」
「誰が着るの?」
「純に決まってるじゃん」
「…………女装はやだ」
「だって純は俺のお嫁さんなんだからドレスでしょ」
いいや、騙されないぞ。男同士の結婚式だってどっちもタキシード着てるのネットで見たし。
「やだ……。女じゃないし……、俺も正和さんと同じのが良い」
「ドレスは写真だけで、式の時はタキシード着せてあげるから。……お願い、着て?」
「……やだ」
写真に残るなら尚更嫌だ。いくら正和さんのお願いとは言え、そう簡単に聞き入れることはできない。
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