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第416話

 場違いな雰囲気に引き気味になっていると、正和さんは俺の手を引いて堂々と中に入っていった。おそらく予約していたのだろう。店員と軽く会話を交わした後、階段を上がって奥の部屋へと進んだ。  うわあ……。  ハンガーに掛けられたドレスが壁一面にずらりと並んでいて、思わずたじろいでしまう。これからこの中のどれかを着せられるのかと思ったら、緊張して背中に嫌な汗をかいた。 「――特にないかなぁ。適当に可愛くしてもらえれば」 「じゃあ、とびきり可愛くしちゃいますね」  店員は何着かドレスを手に取ると、意気揚々と俺に見せてくる。 「何着ても似合いそうですね~。プリンセスラインはいかがでしょう。華やかで、ますます可愛く見えますよ~。定番ですとAラインタイプですね。背も高く見えるしオススメです」 「え……ほんとですか」  あまり乗り気ではなかったけれど、背が高く見えるのは少し嬉しいかも、なんて思って聞き返した。 「はい、縦のラインを強調してくれるデザインなので。ヒールの靴を履けばスタイルももっとよく見えますよ~」 「ヒール……」 「とりあえず試着してみましょうか」  ヒールはちょっと……と思っていたら、ニコニコ笑った店員さんに試着室の方へ行くよう促される。  下着以外は全て脱ぐように言われて、ドキドキしながら脱げば、あれよあれよという間にドレスを着せられた。手をおへその辺りで組むよう指示されてそうしたら、カーテンが開けられて正和さんと対面する。なんだか凄く恥ずかしかった。 「いかがでしょうか」 「っ……」 「――正和さん?」  何も言わない正和さんに不安になって名前を呼べば、彼は凄く嬉しそうな顔をして口元に手を当てた。 「可愛い……。写真撮っても良いかな?」 「良いですよ~」 「え、ちょっと……っ」  正和さんはポケットからデジカメを取り出すと、パシャパシャと何枚か写真を撮って、ご機嫌で店員に話しかける。 「他にもオススメある?」

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