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「この子はとても臆病で……でも、なつくと感情豊かで可愛いですよ」
男はしばらくソラの頬や頭を撫でて、髪の毛先を弄りながら楽しそうに微笑む。
「このままでも可愛いけどな」
じっと目を見つめられて、言われた言葉にソラの胸がトクンと音をたてる。
「たしか一条様はいじめるのがお好きでしたよね?」
「いやいや、優しく甘やかすのも好きだよ」
「甘やかすのも好きなのであって、いじめる方が倍くらいお好きなのでしょう」
一条と呼ばれた男はマスターの方を向いて会話を始めたが、時折ソラのことをチラッと見るものだから、ソラの鼓動がトクトクと速度を上げる。
「まあ否定はしないけど。……抱っこしてみてもいいか?」
「構いませんよ」
ソラはその言葉に怖くなって後退りしそうになるが、マスターに睨まれて半歩にとどまり、腰に腕を回された。
ゆっくりと抱き上げられたけれど、もともと人見知りなソラは、初めて見る男に触られる恐怖と、不安定な感覚に少し泣きそうになる。
「ソラくんの声が聴きたいな」
「っ……」
(なにを……言えば……)
「ここ出たら何したい?」
「えっと……わからない、です」
何したいかなんて、突然聞かれても分からない。そんなこと考えた事もなかった。
「ふふ、声も可愛いね」
彼はソラを安心させるように、優しく微笑んで、ぎゅっと抱きしめた。いつものソトの人と違って、今日の人はやたらソラに構ってくれる。
「連れて帰っちゃおうかなー」
そう言った彼の顔が近づいてきて、額にキスを落とされる。チュッ、と軽く触れるだけの口付けだが、そんな事を初めてされたソラは、胸がドキドキして落ち着かない。
「一条様」
マスターは咎めるように男を呼ぶと、軽々とソラを抱き上げ、彼から離した。そして、再び冷たい床へ降ろされる。
「これ以上はまだご遠慮ください」
一瞬、声を荒げたマスターは、また元の口調に戻る。
「ああ、すまない。つい、な」
「どうされます?」
「んー、そうだな……」
そう言ってソラのことをそのまましばらく見つめた後、ソラの頭をポンポンと撫でた。ソラはドキドキする胸を押さえて彼の顔をじーっと見る。
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