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「……れいや、さま」
「んー、叩かれたいのかなぁ?」
ソラの肩が驚きと恐怖に揺れて、首を大きく横に振った。
「じゃあ、なんて呼ぶんだ?」
「れ、れ……れい、ぅう……っ」
ソラが言うのを躊躇っていると冷たい視線を落とされる。恐怖に背筋がぞくりと震えて、思わず媚びるような甘ったるい声が出た。
「れ、れい、や……?」
「いい子」
零夜は顔を綻ばせて、ソラの頭をポンポンと撫でる。
「じゃ、行くか。おいで」
腕を広げる彼に、ソラは躊躇いながらも抱きつく。彼の腕の中は温かくて、とても心地良い。
すんすん、と鼻を鳴らして匂いを嗅げば、嗅いだことのない不思議な匂いがした。甘いような、だけど、少しツン……としたような爽やかな香り。
(何の匂いだろう?)
首を傾げて、再び彼の胸に顔を埋める。
「マスター、何か着るものない? いくら車とはいえ、この格好はちょっと……」
「少々お待ちください。……これで良ければ」
マスターは引き出しから黒い服を出して、零夜に渡す。
「あ、全然いいよ」
零夜はマスターから受け取った服を広げると、ソラの頭に被せてきた。
「やっ!」
けれど、服なんか着たことないソラは、怖くてそれを押し返す。すると、彼は困った顔をして再びソラを抱き締めた。
「……お願い、着てほしいなぁ」
(こわい、けど……)
これ以上困らせたら、せっかく選んでくれた彼に、捨てられるかもしれない。そう思ったら、再びじわじわ涙が湧いてくる。
服を着ることより、捨てられることの方がずっとずっと怖くて、ソラは零夜の服の裾をキュッと掴んで頷いた。
黒色の服を頭から被せられると、そのまま服の上の穴から顔が外へ出る。袖から指先が出てきた時は、腕が服で隠れていたから、まるで自分の手じゃないように思えて、恐怖心から再度手を引っ込めた。
そして、少しずつゆっくりと指先を袖から覗かせて調べていく。自分の手に感触があることにホッとしつつ、袖を捲って腕と体が繋がっていることを確認した。ちゃんと体があったことに安心したら、今度は初めて着る目新しいその服をはしゃぎ気味に観察する。
「……可愛いな」
そう言った零夜に突然抱き上げられて、ソラは不安になって彼の名を呼ぶ。
「れいや……?」
すると、頬に優しいキスを落とされて、聞き返された。
「何?」
「ソト、行くの?」
「ああ、俺の家は外に出ないと着かないからね」
そう言って、彼はもう一度頬にキスを落とす。
心臓が破裂しそうなくらいドクドクして、零夜が触れる度にそこから焦げていくように熱をもった。もう一度、今度は唇にしようとしてきた零夜のキスを拒めば、彼は寂しそうな顔をして首を傾げる。
「キスは嫌?」
そう聞いてくる彼に慌てて首を振って否定する。
「だ、だって僕、病気かもしれない、し……もし移ったら……」
「何の? マスターは何の病気もないって言ってたけど」
零夜はそう言うとソラの方を心配そうにじーっと見て、ソラの言葉を待っているようだった。マスターも不思議そうにソラの方を向いている。
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