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 お店を出るともう一つ扉があって、それを開けてソトに出ると、冷たい風がツン……と鼻を刺激して、くしゅんと小さなくしゃみが出る。初めて出たソトは、少しだけ寒かった。  零夜は真理を気遣ってか、着ている上着を身につけたまま真理にも被せてくれる。  地面は黒くて硬そうで、所々にその黒を隠すように白い線が引かれていた。初めて空を見上げると、聞いていた感じと少し違って暗い。おまけに空を横切るような黒い線が何本もあった。 「ソラって、青じゃないの……?」 「空? あぁ、今は夜だから。朝がくれば青くなるよ持ちきれない」  そう言って、少し歩いた所に停めてあった車に真理を乗せる。肩の辺りから伸びたベルトを、腰の所にあった薄い穴にカチッと差し込んで、零夜も真理の右隣に座った。 「これ、本物……?」  そう尋ねれば、零夜は何がおかしいのかクスクス笑う。 「もちろん。見たことあるの?」 「前にびでおで見た」 「そっか」  零夜は落ち着いて話すけれど、真理はサーッと青ざめる。初めて見るものばかりで興奮していたから、敬語をすっかり忘れてしまっていたことに今更気づいた。 「ああ、ごめんなさい。僕、お話うまくできなくて、マスターに向かってこんな──」 「全然いいよ。むしろそっちのが自然でいいんじゃないか。俺はその方が好きだなぁ」  零夜が何かを操作すると車内に温かい風が吹き込む。 「あと、名前。マスターって呼び方は好きじゃない」 「ごめんなさい。……あの」 「何?」 「これから……よろしく、お願いします。僕、何もできないけど……がんばる、から」 「うん、よろしく」  そう言って、真理の新しいマスターは優しく微笑んだ。少しだけ不安もあるけれど、新しい生活はとっても楽しみで、胸がわくわくする。  零夜が足元のペダルを踏むと、車はゆっくりと走り出して、ソラは少しだけ驚いた。最初はゆっくりと流れていた外の景色が、段々と速くなって目で追えなくなる。  けれど、しばらくして少し気になることがあった。 「なんでさっきから止まるの?」 「信号が赤だから」  聞きなれない単語に首を傾げれば、真理の疑問に気付いたのか、零夜が教えてくれる。 「あそこで光ってるやつ、あれが信号」 「止まらなくてもいいじゃん」 「赤の時は止まんなきゃダメ。じゃなきゃ人を轢いちゃうかもしれないでしょ。こっちが青になったら、向こうの信号が赤になって、車も人も止まるから、俺たちの渡る番なの」 「わかった?」と聞いてくる零夜にようやく頷く。どうやら、ソトの世界にもいろいろ「るーる」があるらしい。

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