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第61話
「なに?鈴原君は猛獣使いだったの?」
楽しそうな顔をして、堂上先輩が訊いてくる。
「や、小物使いです」
「トアっ!小物ってなに!?」
やかましい、小物。
「もぉー、ライちゃん。ちゃんとイスに座って」
「あ。は~い、俺の天使♡」
怜に差し出された手を握り返して、小物は笑顔になった。
「怜ちんはやっぱり優しいなぁ!」
そんなこと言いながら、こっちをチラチラ見てくんな!
「俺だって、あきくんには優しくするし」
「えっ!? トアが優しくされてるんじゃなくて!?」
「優しくされてるし、優しくもしてんの!ね?あきくん、俺だって優しいよね?」
訊きながら、隣に座るあきくんの腕にぎゅって抱き着く。
「えっ…、あ、うん。そうだね」
んん…? なんだ、その返しは…?
「あ、ほらほらやっぱり!トアは優しくねーんじゃん!」
「えっ、あ、ううん!十碧は優しいよ」
シノの言葉に首を振って微笑むあきくんは、…でも、俺の目にはなにかを誤魔化してるようにしか見えなくて……
違和感───
「いや、庇わなくていっすよ!トアがキッツいの俺らみんな知ってんで!」
「そんなこと無いよ。僕にはキツイこと言わないし」
シノと会話を交わすあきくんをじっと見つめる。
俺の視線に気付いたあきくんは、「なに?」と訊く代わりに首をちょっと傾げて、やんわり微笑んだ。
少しだけ眉をハの字に下げて。
「そろそろ2周目投げても構わないか?」
平茅先輩の声で、二巡目が始まる。
あきくんはスタンバイしてるボールを指で突付いて、やだなぁ…って小さく呟いた。
「まさかこんなに出来ないことがあるなんて思いもしなかった」
おっ…とぉ、優等生発言。
俺なんか、世の中に出来ないことばかりが溢れ返ってるってのにね。
* * * * *
2ゲーム終えて。
人数と、散々お喋りしながらチーム対抗!なんてやってた所為か、気付いたら結構な時間になっちゃってた。
俺達は地元だし明日も学校休みだから、この後ご飯食べ行って、とかってまだ遊んでられるけど、あきくん達は明日、卒業式だ。
「月都、そろそろ出発しないと寮に着くのが遅くなるだろう」
「あ、うん。そうだね。ありがと、ハッシー」
「駅まで送っていく」
あ、そうだ、そうだった。月都は地元から離れてんだった。早く帰らせてあげないとじゃん。
流石橋神様、頼りになる。
「じゃあ、俺達も解散しよっか。あきくん、先輩たち、遊んでくれてありがとうございました」
みんなで揃って頭を下げると、あきくん達3人は、自分たちも楽しかったから、って優しく笑ってくれた。
「堂上、平茅、僕たちも解散でいい?」
「勿論」
平茅先輩も堂上先輩の返しに頷いて。
三年組も撤収みたいだ。
「十碧、送ってくよ」
隣に並ぶあきくんの指先が、俺の指に触れた。
「いいの?明日卒業式なのに、帰るの遅くなんない?」
「大丈夫」
「う~ん…、正直、逆に俺があきくんのこと送っていきたいんだけどな。一人で帰って変な人に目ぇ付けらんないか心配」
「あのね…、十碧? 十碧は自分で思ってるよりずーーっと可愛いんだからね。僕の方がよっぽど心配なの。わかる?」
「え、でも俺、自分でも結構可愛い方だとは自覚してるよ? けど、男子高校生としては、って括りの中でだし、別に平気じゃ…」
「その自覚の千倍は可愛いから」
「えーっ!じゃああきくんはその千倍!美形、自覚してくんないと」
「え…、ウソ、なにあのバカップルな会話はっ」
「あの2人、あれでまだ付き合ってないんだって」
「え、うっそ!どう見てもラブラブバカップルなのに!?」
「ねぇ?コーヒー、ブラックで飲みたくなるよね」
「俺、エスプレッソいっときたいです」
「シノ!うっさい!」
「堂上も、もう帰れば」
「は~いはい。じゃあ、解散。よかったらまた遊ぼうね」
オトコっぽい色気溢れる笑みを浮かべて、堂上先輩が後ろ手を振る。
平茅先輩と、ハッシー、月都がそれに続き、バイバイと手を振って、怜とシノは駅とは逆の方向へ歩き出した。
「十碧。僕たちも帰ろうか」
「うん!」
あきくんの手をぎゅって握ると、ぎゅって握り返してくれた。
俺、基本中性顔だし、今日の服は男女どっちが着ててもおかしくない仕様だから、男同士手ぇ繋いでたとこで別段変な目で見られることもないだろう。
知り合いには気付かれちゃうかもだけど、それより俺が男と見られて、あきくんが逆ナンされちゃう、とかのが大変だ。大問題だ!
「明日、卒業式何時まで?」
「11時半過ぎかな」
「卒業生代表挨拶って、やっぱり…」
「堂上だよ」
「あきくんのお父さんとお母さんは、式に参列するの?」
「そのつもりだったけど、どうしても抜けられない仕事が入って来られなくなっちゃったんだって。代わりに兄さんが来てくれる予定」
「そっかぁ。にしても うち、共学校じゃなくて良かったね。陽成さん来たら、女の子たち大騒ぎになっちゃうもんね」
「ふふっ、そうかもね」
他愛ない会話を交わしながら、怜たちの背中を追う。
夕陽に照らされてオレンジに染まったあきくんの整った顔は、至極眩しくて、そしてとっても綺麗で……
俺はその横顔を目を細めて見つめながら、心の中でそっと彼に語りかけた。
明日、告白するから。
大好きだって、伝えるから。
きっと──俺の気持ち、受け止めてください。
それから、ちゃんと準備して体も磨いてくから!
もう我慢なんてさせないからね。
思う存分、俺のこと、頂いちゃってください!
あっ、そうだ!沙綾ちゃんから貰ったゴムとローションも忘れないようにしとかないとだ!
帰ったら、ボストンバッグにお泊りの準備しておこー♪
明日が楽しみで、待ち遠しくて、ドキドキが止まんないぜ!
どうしよ~。眠れるかな~?
くま太以外になに持ってこ~?
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