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第64話
「・・・・・・・・・・・・」
えっ…、このタイミングで無視とか有り得んの!?
ちょっ、ウソだろあきくん!なんで固まっちゃってんの?!
は……、え?まさか、あきくん俺のことフるつもりだった!?
なのに勝手にキスしちゃったから、固まるしかなくなった…?
昨日逢った時は、まだ好きでいてくれてるって、信じて疑わなかった。けど……
もう俺のこと……好きじゃない…?
「鈴原、許してやってよ」
「えっ……?」
あきくんとは別の声に、いつの間にか俯いてた顔を上げる。その存在に全然気付いてなかった第三者の姿に、徐に目を向けた。
そこには、昨日知り合った堂上先輩と平茅先輩が立っていた。
許してって…どういうこと?
不安の隠せない視線で、言外に訊ねる。
「だって七瀬の奴、さっきまで君にフラレたって荒れてたんだから」
「は……!?」
俺にフラレた!?
「俺、フッてない!!」
「だよねえ」
「だから早く家に帰れと言っただろう」
堂上先輩の話によると……
式典後、それぞれ生徒会の後輩と、部活の後輩に囲まれていた先輩たちの元に、部の後輩を引き連れたままあきくんが涙目でやって来て、「十碧見なかった?」と訊いたらしい。
見なかった、と揃って言う二人目の答えを聞くなり、「十碧にフラレた」と泣き出して、二人を連れ出し「ヤケ酒する」ってスーパーへ。
───って!
「えっ、うそ!あきくんがそんな悪いことしたの!?」
「してたよー。スーパーで甘酒の大きなパック買って、公園でヤケ飲み」
「酒粕じゃなく米麹で作った甘酒でな」
「って、それ小学生でも飲めるやつじゃん!」
そもそも未成年は酒なんて買えないんだから、ヤケ酒なんて出来るハズもないんだけど。
「で、飲み過ぎて気持ち悪いって言うもんだから、二人で両脇抱えて連れ帰ったってわけ」
「その前に、フラれる筈がないんだから早く家へ帰れと何度も言ったんだが」
「だって、今日告白の返事聞かせてくれる約束なのに、来てくれなかった、の一点張りでね」
…………なにやってんだ。
マジなにやってんだ。この人……
「それは……すみません。ご迷惑おかけしました」
「いや、鈴原が悪い訳じゃない」
「そうそう。この早とちりの七瀬が、ねぇ?」
「う……、ごめんなさい……」
それ誰に向かって謝ってんだ?あきくん。
先輩たちと、もちろん俺にも向けられてるんだろうな?
早とちりの七瀬先輩?
「あきくんは俺が引き取りますんで」
「ん。そうして貰えると助かる」
そして二人の先輩はそれぞれ、仲間たちを待たせている打ち上げ会場へと向かっていった。
「また昨日の皆で遊ぼうね」って、俺の頭をぽんってして。
「……十碧、ごめん。入ろうか?」
あきくんは、復活したのかしてないのか。赤く潤んだ目元を気まずそうに細めて、玄関の鍵を開けた。
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