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第65話
「あの……、ごめんね?十碧」
玄関の鍵を掛けて振り向いたあきくん。
靴も脱がずにそこに座ってプーってほっぺを膨らませてる俺に、困った顔して頭を下げてくる。
「俺、あきくんの部活の後輩じゃないもん」
「うん」
「あきくんの中の特別枠だから、ここで待ってたんだもん」
「うん。待たせてごめんね」
「謝んの、そこじゃないし」
プンって顔を背けると、またあきくんは「ごめんね」って言った。
俺がなんで怒ってんのか分かってんのかな?
ごめんって言い続けてれば許されるとか思ってない?
今度はジト目を向けてやれば、あきくんはやっぱり困った顔して俺を見下ろした。
「十碧の気持ち、信じてなくてごめんなさい」
「っ!」
───それだよそれ!!
「実は、十碧に好かれてるんじゃないかなって、少し 自信が合ったんだけど…。昨日……」
「? 昨日?」
話しながら、あきくんは靴を脱いで玄関を上がる。
「十碧が、堂上のことを格好良いって言ってるのを聞いて…」
「へっ…?……俺が?」
「うん。十碧が。だからね、十碧は僕じゃなくて、堂上のことを好きになっちゃったんじゃないか…って」
「はいっ!?」
まてまて、何の話だ?
俺が言ったの? 堂上先輩かっこい~♡って?
「……イヤイヤイヤ。だって堂上先輩 全然好みじゃないし」
イヤだよ、あんな色気オバケ 。
「てか、それって俺、ドコで言ってた?」
「……ボーリング場で」
言った…かあ?
「僕はヘタで格好悪かったのに、堂上は格好良くストライクを決めて…」
「っ!あー!はいはい」
なるほど、それね!
…って、俺が合点してる下で あきくんは一体何をしてんだ?
俺の膝を曲げさせて持ち上げて、片っぽずつ靴を脱がして。
「あれってさ、バッターがホームラン打ってキャーッて、ストライカーがゴール決めたの見てかっこいー!ってのと同じ反応じゃん」
「うん」
「ボーリングへたくそな あきくん見て、俺 そんなあきくんも可愛いって思ってたし」
「うん」
「てか、復活したんですか?」
「うん」
見る見る表情が柔らかくなって、今やほわほわといつも以上にキラッキラな笑顔を浮かべてる王子様。目は赤いけど。
俺もいつの間にか、玄関から上がらされてるし。
「十碧」
………もう。しょーがないなあ!
惚れた弱みだ。好きな男には敵わない。
「好きだよ」
「……うん。俺も、あきくんが好きだよ」
「うん。十碧、」
「はい」
「僕と付き合って下さい」
「よろこんで!」
いっかい あきくんを見上げてから、目蓋を閉じた。
フニッて唇に柔らかい感触。
短く触れただけなのに、胸がふるふるってなった。
じんわり温かさが広がってく。
しあわせが自己アピールしてんのかな?俺はここに居ますよって。心臓、ドキドキしててちょっと痛い。
ぎゅ~って思い切り抱き締められた体も、ちょっと痛い。
けど、痛いのにだって笑えてきちゃう。
俺きっと今、あきくん以上に顔 ゆるゆるだ。
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