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第66話

二人共、離れるタイミングを見出だせずに数分間抱き締めあったまま。 「……ヤバい、心臓痛い…」 俺のつぶやきで、あきくんが慌てて腕の力を緩めた。 二人分の鼓動がドクドク激しくて、心臓もたない。危うく倒れちゃうかと思った。 あきくんは「大丈夫?」って俺の頭をよしよしすると、 「取り敢えず落ち着こうか」 ふわりと微笑んで、手を引きリビングに案内してくれた。 「えっとねー、これ母さんから卒業祝い。それとね、こっちは俺から」 改めて、ご卒業おめでとうございます。って、母さんから預かった紙袋と、ブーケを渡した。 「ありがとう、十碧」 「ううん。…ふふっ」 「なあに?」 「なんでもな~い」 俺の選んだ花束、やっぱりあきくんに似合ってる~、って思ったら笑えてきちゃっただけ。 「それで、ずっと気になってたんだけどね、十碧。その花、」 「ん?花、めっちゃ綺麗でしょー。俺があきくんのイメージで選んだんだ!」 「え、十碧の中の僕のイメージって、こんなに綺麗で優しそうな感じなの?」 ハードル上がってるなぁ、って困ったようにあきくんは笑うけど。 安心して下さい! あきくんは普段から月下美人のバックにこの花束背負ってる人だから! 元よりキラッキラの王子様なんだから! つまり、この綺麗な花束だって、あきくんを引き立てるための背景でしかないって事なんだからね。 「え、と…、それでね、十碧」 「はい!」 挙手して返事すると、あきくんはくすりと小さく笑みを零す。 「その花」 耳元の髪をふわりと掬われた。 距離がゼロになって、あきくんの香りが優しく鼻腔を擽る。 「ピンクの…ガーベラ?」 「あ…」 忘れてた。俺の髪に、花が挿してあったこと。 リボンで結わってもらったんだった。 「花屋のお姉さんが付けてくれたんだ」 「十碧が可愛いから?」 「う~んと…」 お姉さんが沙綾ちゃんと同じ属性だったから。 って言っても分かんないか。 「十碧も、卒業祝いのプレゼント?」 耳朶を弄びながら、あきくんの綺麗な顔が近付いて。イタズラっぽく笑うと、首を傾げた。 「……うん。俺もプレゼント」 「えっ…」 「えっ、てなに?」 「え、だって、…冗談?」 「冗談なんかじゃないよ。俺、お尻綺麗にしてきたもん」 「えっ…!?」 えっ、てなんだ、えって。 さっきまで妙に色気を纏ってたくせに、なに今更赤くなってんだこの人は。 「あのね、解すトコまではしてないんだけど…、出来なさそうならちゃんと言ってね。俺、自分で準備するから」 「えっ、…えっ、待って、お尻って……、えっ…」 「あっ、ちなみに俺 処女(ハジメテ)だから、優しくして欲しいんだけど」 「~~~っっ」 真っ赤になってワタワタし出したと思えば、途端目の前で床に崩れ落ちた。 ってか、顔を押さえてしゃがみこんじゃったんだけど。 「待って、十碧、心の準備が…っ」 なんか受け臭いこと言い出した。 「あれ?あきくん、俺にINしたい方だよね?」 左手の親指と人差し指で作ったホールに右手の人差し指を挿れたり出したりしながら訊くと、やめなさいって窘められた。 「せっかく綺麗にしてきたのに~?」 「う……と、それは、…また、その、良き日に…」 あきくん意外とヘタレンジャーだな。 「じゃあ…、しょーがないから ちゅーだけしよ? イチャイチャぐらいはしたいよ?俺」 俺もあきくんの正面にしゃがみこんで、持ち上がった赤い顔に強請るように小首を傾げた。 それぐらいなら、とか言われようものなら幾らあきくん相手でも怒ってやろうと思ったけど。 あきくんは俺の首に手を伸ばすと、喉をこしょこしょって擽ってきた。 「ん…」 「…かわい」 俺の反応に気を良くして、ふわりと微笑む顔に色気が浮かぶ。 心の準備とかなんとか言っておきながらこの人…。 「おいで、十碧」 差し出された手を掴み、立ち上がる。 おっし!エッチお預けの代わりに、いっぱい甘やかしてもらっちゃおうっと。

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