隣がいいかな？それとも膝、とか？ 座る場所を考えて動きを止めると、「おいで」って。繋いだ手を引かれた。 その手に導かれるまま、俺はあきくんの膝に正面からストン。 「お代官様も中々におエロい」 「なに？それは」 くすりと笑ったあきくんに、胸にぎゅって閉じ込められた。 余裕を取り戻したのか、さっきより優しく。痛くない力で。 だけどやっぱり心臓はきゅーーって、痛いくらいにしあわせを訴え掛けてくる。 苦しくて、息が詰まって、はふ…ってゆっくり息を漏らすと、あきくんは「まだ心臓痛い？」って軽く身を離した。 「うん。……なんかね、しあわせでこのまま死んじゃいそうって言うの、今まさに実感してるトコ」 「うん…。言ってることは分かるけど、死なれたら困るから少し離れておく？」 「！ 死なないから離れないっ！」 慌てて抱き着いて肩に顔をスリスリさせると、またあきくんは小さく笑った。 さっきからずっと笑ってるけど、それってあきくんも幸せだから自然と笑顔になっちゃってるって解釈でいいんだよね？ 俺の反応見て楽しんでる訳じゃないよね!? 緩むほっぺをツンってすると、顔が傾いて、イタズラした指先にちゅってキスが落とされる。 「……指だけじゃなくて、ココにも」 顔を上げて、あきくんの唇を奪った指先で、自分の口をトン、トン。 優しい色を宿した目がやんわりと細められて。 「好きだよ、十碧」 「俺も。大好き、あきくん」 その表情を見てられないのは勿体無いんだけど。 瞼の裏に焼き付けるよう、そっと目を閉じた瞬間。 唇がふわりと重なった。 やっぱり胸がじんわり、ふるふるする。 すぐに離れた唇は、またすぐに俺の唇を塞いで。 柔らかくて、温かくて、気持ちよくて…… 胸はきゅーって苦しいんだけど、唇が離れるたびに はふ…って息をして。それを見てからまたキスしてくれるから、息はそんなに苦しくならない。 ただただ俺のことを思ってくれるキスに蕩かされながら、あきくんもちゃんと気持ちいいのかな？って、そっと目を開けた。 「っ……！」 ドクン──って胸が高鳴る。 蕩けるどころか、焼け焦がされちゃいそうな熱い瞳のオトコがそこに居た。 溶けちゃいそうな俺を見て、ケモノみたいに俺のこと欲しがってるくせに、触れる手や唇は洗礼された王子様そのもの。 ガマンしてくれてんのかな？ 俺、大丈夫なのに。 心臓痛くても、胸が苦しくても、全然平気なのに。 もっといっぱい、求めてくれていいのに。 求めて欲しいのに…… 「簡単に壊れないよ？俺」 口が離れた一瞬、あきくんに縋りついてた手を外し、その頬に触れる。 「俺は、あきくんが思ってるよりきっと強いから。もっと がっついていいんだからね」 「十碧……」 あきくんの目が、ピクッてした。 「つまるところ……、もっとえっちぃちゅーもしてみたいってコトなんだけど。……どですか？」 瞳がちょっと彷徨いて、顔がほんのり赤く染まってく。 「そ……れは、……そっか…。キスだけなら笹谷とも…」 「ちょっ…！そこで鞍馬の名前出すのはダメでしょーが！反則だろ！」 「あっ……、ごめん」 ごめんじゃないよ、もーっ！ 俺なんて、今の今までスッカリだよ？ 今の今まで、元カレ 頭の片隅にも居ませんでした！ハクジョーなことに。 それを よりにもよって、あきくんが言い出しちゃダメでしょーが！ 「はい！仕切り直す！」 パチンと大きく手を鳴らす。 「はい」 あきくんは神妙な顔つきで頷いた。 「十碧くんは機嫌を損ねています。あきくんはどうすればいいんでしょうか？」 「えっと、ケーキ食べる？」 「ちっがーう！ちゅーでしょーが！えっっろいキスでメロメロにしちゃうのが正解でしょーが！」 「それでいいの？ご機嫌取り、あっ…」 「一択でそれだよ！…ん？あっ、て…」 少し待ってて、と耳元で囁かれて。膝からソファーに下ろされた。 なんだろ。十碧くん中途半端で放り出されたんだけど。 あきくんは忍び足でリビングを突っ切って、磨りガラスの扉に姿が映らないよう壁に身を潜めながらドアノブに手を掛けて…… 「兄さん!?」 バッと勢い良くドアを引いた。 「ぅわっ！」 「あらぁ？」 「ほ～ら、言わんこっちゃない」 ドアに凭れたまま転がり込んできたのは陽成さんじゃなく、あきくんに雰囲気の似た大人の男の人で、 すっとぼけた顔で笑ってるのは、陽成さんに似た大人の女の人で、 本物の陽成さんは、呆れ顔で二人を見下ろしてて……… えっ……!? ……イヤイヤイヤ、ええッ!? 「……念の為に訊くけど、二人共、卒業式に参列してた？」 「勿論！息子の晴れ舞台だもの。卒業証書の授与姿、格好良かったわよ、玲」 「普通に行こうって何度も言ったんだけどね、僕じゃ止められなかった。ごめんね、玲仁」 「はぁ…。取り敢えずおかえり。父さん、母さん」 やっぱり！あきくんのお父さんとお母さんだった！！ 俺！そんな人たちに聞こえるトコで、えっっろいキスとか強請っちゃってたんだけど!? ああああっっっ！！！ ……………………おわった………チーン