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第69話

「十碧は、ずっと、我慢をして生きてきて、」 そんな事ないのに。 鞍馬に対してだって俺は、言いたいこといっぱい言って生きてきた。 「初めは僕にも遠慮してばかりで、もっと我儘を言ってほしいってお願いしたくらいで、」 俺が熱を出して学校休んで、あきくんがお見舞いに来てくれた時のことだ。 まだ知り合ったばかりのあきくんに対して、俺が散々甘えたなコトを言っちゃって。 普通だったら、暴君か!って思うトコ。あきくんは「もっと我儘を言って欲しい」って。そう言って、病気して弱気になってる俺を甘やかしてくれたんだ。 「ずっと、見てきたから。たくさん悲しい思いをして、泣いてるところ。だから、これからは僕が目一杯甘やかしたいと思ってる」 これからは、じゃなくて、これから“も”、だよ。あきくん。 この一月余りで、俺は今まで家族以外から受けたことのない程の愛情をこれでもかってくらい、いっぱいいっぱい注がれた。 だけどそれは溢れること無く俺の中にじんわりと沁み込んで。 それはもう、すっかり俺の一部になってるんだよ。 これから俺は、それを受け取るだけじゃなく、あきくんに対して返していく番。 俺の中で、蜂蜜に漬け込まれた果実みたいな蕩けるように甘くて優しい愛情を、俺からも。貴方へ。 「これから先もずっと、大切にしたい人です」 「───っ、俺も…っ、誰よりも大切にします! 泣かせたりなんてしません!! よろしくお願いしますっ!」 あきくんの胸から離れて、もう一度、深く頭を下げた。 「泣かされませんっ! お願いします!」 あきくんも高らかに宣言して、並んで深々と頭を下げる。 「ブッ…」 ……今のは陽成さんか? なんでこのタイミングで噴き出してんだよ。 俺たち、この先も一緒に居られるよう、一世一代のお願いしてるトコなんだよ! っても、反対されたって絶対別れないけど! だってこんなに俺のこと好きになってくれる人、 俺がこんなにも好きになる人、 後にも先にも、あきくんしか居ないんだから。 一緒に居ると嬉しくて、温かくて、安心して。だけど心がちょっとソワソワする。 恋だなぁ…って思うとまた、胸がきゅんきゅんするんだ。 本人が短所だって思ってるとこだって、俺には可愛くしか見えなくて。 あきくんもそうだったらいいなって。 これから大学に行って、どんな美人に口説かれたって、告られたって、 あぁ…早く十碧に逢いたいな、って。 十碧だったらもっと可愛く甘えてくれるのに。 告白のこたえをくれた時、可愛かったな。って。 きっとそう思ってくれるだろうこと。ヤキモチは焼いちゃっても、不安にならないくらい、愛されてるって わかってる。 絶対に、放したくない人。 俺がしあわせにしたい人。 それは、辛い時に一緒にいてくれたからだけじゃなくて、 理想の王子様だからってだけじゃなくて、 誰かに「付き合い初めの今だから、まだ子供だからそんな風に思うんだ」って嘲笑われても、じゃあそれおんなじこと50年後にも言ってみろよ!って迷いなく返せるような 熱くて深い想い。 言っとくけど、うちの両親、中学からの初恋カレカノで結婚してんだからな。 俺、その人たちの一人息子です!

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