70 / 120

第70話

「いいんじゃない、それで」 「「えっ…」」 その声の発生元。思わず見やれば、あきくんのお母さんがケロッとした顔をして俺たちを見ていた。 「ただし、生半可な覚悟しか無いなら、今ここで別れちゃいなさい」 一体なにを言われたのか…… 聞いたハズの──咀嚼できなかった言葉を頭の中で反芻して…。 やっぱり分からなくて、彼女を見つめる。 だって、「いいんじゃない」なんて…… そんな何でもないような表情(かお)で、言うことじゃない。 「……俺、…男です」 「…ええ。そうね」 「俺、だけどあきくんが好きで…、大切で…」 「だから幸せにする。絶対に泣かせない覚悟を決めてるんでしょう?  あの子、貴方にフラレたらきっとギャン泣きするわよ」 ギャン泣き…… あきくんがそんな風に泣いたりする…かな? 考えてみるけど、そんなあきくんは想像できなくて…… それに、フラレたら。なんて…… 「フラないし、泣かせないです。悲しくて泣かせたりしない。でも、…幸せ過ぎて泣かせちゃうのは、ノーカウントですか?」 「あ~ら、言うじゃない。イイ男ね、十碧ちゃん」 徐に笑顔に変わっていく彼女を見ているうちに、凍えそうになってた心はいつの間にかぽかぽかと熱を取り戻してた。 「十碧。ね?大丈夫だったでしょう?」 あきくんが、ふわりと微笑って俺の頭を撫でる。 頷いて、笑い返した。 だけどその様子に、俺に向けて笑顔を見せていたあきくんのお母さんは、不意に不機嫌な顔をあきくんに向ける。 「いつから確信してたの?大丈夫だなんて」 「二人の顔を見た時から。何年 息子やってると思ってるの」 「ほんと食えない子ねえ。我が子ながら」 「そこは母さんからの遺伝かな、と思うのだけど」 「えーっ、ウソウソ。私こんなに強かじゃないもの」 「「「強か過ぎるくらいだから!!」」」 はぅ!七瀬家男性陣の声がハモった! どうやらこの家のボスは、この美人で長身のカッコイイお母さんで間違いないようだ。

ともだちにシェアしよう!