83 / 120

第83話

鞍馬は見た目によらず意外と勉強が得意で。素行込みで配点するから通知表は4や5が並んでるって訳じゃないけど、テストの点数だけはいつも学年で10位前後に位置してた。 内申だけなら鞍馬とおんなじぐらいの俺は、だけどテストの点はからっきしで。 だから、おんなじ高校に行くために必死に勉強したんだ。 そう言えば中2の頃、突然真面目そうな髪型して学校に来た鞍馬に 思わず噴き出したことがあったっけ。 『しゃーねぇだろ。今日、受験用の証明写真撮んだからよ』 気まずそうな顔して頭を掻いた鞍馬が、なんだか可愛かった。 乱れちゃうよ、って、髪を直してあげた。 俺にとっては学力的に、ちょっと難しい受験だった。けど。 「でもまあ、鞍馬には感謝してるよ。鞍馬のこと追っかけて高校入ったお陰で、あきくんと逢えたんだし」 そうイタズラに笑って言えば、鞍馬は顔を顰め、その表情を隠すように背を向けて歩き出した。 「鞍馬、また学校でね!」 「おー」 返す声は気怠げで、素っ気ないけど。 軽く手を上げて、曲がり角を折れる。 ………うん。 今度こそちゃんと成仏できたかな? 俺の初恋……… 「───ぃよしっ!」 勢い付けて立ち上がる。 そして、駅へと足を向け、歩き出した。 鞍馬の消えた道とは、逆の方向へ。 駅に向かいながら、今度はあきくんに電話した。 駅まで向かいに来るなんて言うから、そんなに心配なのかなって可笑しくなって笑った。 「家で待ってて。大丈夫、ちゃんと帰るから」 渋々了承したあきくんと、電車の中ではLimeでやりとり。 もう駅に着くからって断って、スマホをポッケに押し込んで。 改札をくぐれば自然と早足になって、気付けば走り出してた。 「十碧、おかえり」 そう声が掛けられたのは門の前に着いた瞬間で。 「っ! ……ただいま」 ビックリしたのは一瞬で、すぐに嬉しい気持ちがあふれ出して顔が緩んだ。 家で待っててって言ったから駅までは来なかったけど、ずっと玄関の外で待っててくれたのかな。あきくん。 「そんなに心配だった?」 笑って首を傾げれば、 「心配だったよ」 門を開けて俺を迎え入れてくれて、抱き締めようと手を広げ───……た あきくんの顔が、瞬時にして青く染まった。 「え──?」 「どうしたの十碧っ!?」 どうしたの、は、俺が訊こうと思ったんだけど。 「首っ!噛まれたの!?」 「あ、……あぁ。ちょっと野獣に、ね。てか、そんな目立つ痕になってる?」 「目立つよ!紫だよ!?」 「あぁ…。んにゃろぉ…」 やってくれやがったよ、最後に。鞍馬のやつ。 噛み痕よりあきくんのが紫になっちゃう勢いでオロオロさせやがって。 俺的には、心配されてぎゅーって抱き締められたりなんかして、まあ、役得だけどさ。

ともだちにシェアしよう!