91 / 120

第91話

七瀬家のお風呂は、浴槽に一定量溜まると自動でお湯が止まる仕組みになってるらしい。 打ちひしがれてるうちに、シャワーで全身流されて、抱き上げられて、あきくんに後ろから抱っこされる形で湯舟にちゃぷん…。 「……それにね、十碧」 あー…… ホワイトローズの入浴剤の優しい香りに、あきくんの柔らかな声音…… 気持ちいいわー……… 「付き合ったその日に…そういう関係になるのって、ちょっと……早いと思うんだ」 「んー…」 心地好くて眠っちゃいそう。 その、手をやわやわと握ってくんのもさ…。 「付き合ったら、まずデートからでしょう?」 ……うん。デート、いっぱいしたよね。付き合う前にだけど。 釣った魚には餌をやらなくなる男も居るらしいけど、あきくんは付き合ってからも大切にしてくれそうだよね~。 「付き合って3回目のデートで初めてキスをして、そう言う…エッチなことをするのは、付き合い初めから3ヶ月経ってから」 ん…? んん?! 「恋愛においては“3”って数字が大切……と、兄さんから教わったんだけど、………もしかして、一般的な常識とは異なってる…?」 それ、いつの時代の常識!? 思わず勢い良く振り返ってしまった俺の視線の先には、自信なさげなあきくんの顔。 「それ、騙されて遊ばれてない…?」 「っ──また…!?」 また、って…… 「えっ、……じゃあ、何が本当なの…」 オイオイ、陽成さん……。 分かるけど。こんな可愛い反応されたら、つい揶揄って遊びたくなっちゃう気持ち、分かる け・ど・も! そんで俺達がすれ違って別れちゃう、なんてことになったら どうしてくれるつもりだったんだ、あの人は…… そんな簡単に別れるくらいなら初めっから付き合うなよ、って事? それとも、そのぐらいで別れる心配はしてないって? まあどう思われてるにしろ、別れないけどね! 訂正はさせてもらいますよ、訂正は!! 「……1ヶ月…、は待ちます。あきくんの覚悟が決まるまで」 ホントなら覚悟必要なの、こっちの立ち位置の方なんだけどね! 「それ以上待たせるようなら、」 「…十碧……?」 なんでそんな顔すんの。 なんでそんな不安そうな顔すんのさ。 それ以上待たせるようなら“別れる”とでも、俺が言うと思ってんの? そう思ってんなら、あきくんはバカだ。 俺のこと馬鹿にするにも程がある。 俺、男渡り歩けるような軽薄な男じゃないし、ついさっき交わしたばかりの約束を簡単に反故にするようないい加減なヤツでもない。 あきくんとずっと一緒に居たいって気持ちは偽ること無い本心で、あきくんだって、俺の想いをちゃんと受け入れてくれてるハズで。 でも、それが分かってた所で、不安になる人が居ないわけじゃないことだって、分かってる。 だから、あきくんがそうなら、俺がしっかりと思い知らせてやればいいだけだ。 俺の愛の深さを、ね。 「──襲います」 「え………?」 「だから、あきくんが手ぇ出してくれないなら、俺から手を出します」 「え、…十碧…が…?」 「そう、“十碧が”! んでも俺、タチ無理そうだから、襲い受けね。あきくんの勝手に勃てて、勝手に俺の中に挿れちゃうから」 「…………」 ん〜〜、なに目ぇ丸くしちゃってんだよー。 可愛くても(って自分で言っちゃうけど)、バリネコでも、俺だって(お・と・こ)だっての! 本音としては襲われたいけど、それがムリならこっちから行くの! ぶっちゃけ、早くしてみたいんだからね、処女喪失! 「襲われるの怖かったら、あきくんから襲ってください。…あっ、でも、覚悟決まったら前もって知らせておいてほしいかも。お尻綺麗にしておくから!」 今日も綺麗にしてきたんだけどね~、と前の(ヘリ)に手を付いてお尻を見せ付けると、あきくんは顔を赤く染めて目をそっと逸らしながら、「十碧は男前だね…」と呟いた。

ともだちにシェアしよう!