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第92話

そんなこんなで、あきくんの天然っぷりにすっかり悶々が落ち着いてしまった俺たちは、ゆっくりとお風呂に浸かって、汗かいたからって頭と身体洗って、健全なバスタイムをまったり楽しんでからお風呂を出た。 「あれ?父さんと母さんは?」 「っ!」 そうだった…! 陽成さんと顔を合わせてのあきくんの第一声に、そういえばお父さんとお母さんが居たんだった!って思い出した。 戻ってきて挨拶もせずにお風呂に入ってた俺、一体…!! 超失礼なヤツじゃん!! 「ん〜? もう本社に顔出す時間だって出て行ったけど」 父さんが声掛けようかって言ったんだけど、母さんがさ、あの人 気が回るだろ? と、言外に悟れと言わんばかりのニヤニヤ笑い。 気不味い視線を向けると、陽成さんは、「あ、母さん社長秘書なんだよ。だから父さんと一緒にね」って、訊いてもいないことを教えてくれた。 違う違う。お父さんの職場なのに夫婦で行ったの?なんて疑問に思って見てた訳じゃない。 …なんてことは、陽成さんだってまるっとお見通しなんだろうけどさ。 「と〜あ」 兄さんばかり見てないでこっちも見て、って言わんばかりのちょっと拗ねた声で名前を呼ばれて、ジト目を笑顔に変えて振り返る。 「はいっ」 十碧くん渾身の、とびきりの輝く笑顔になれたと思うんだ。 なのに、あきくんは… 「ちょっと出てくるから待っててくれる?」 「えっ…」 「ちゃんと頭、乾かしておくんだよ」 「え?えっ…?」 「兄さん、十碧をよろしくお願いします」 「はいよ」 俺を驚かせたまま足早に、部屋を出ていった。 あきくんだって、まだ頭 乾かしてないのに。 「えっ…、どこ行くの…?」 やっと口に出来た疑問は本人の耳に届くこと無く、玄関のドアが閉まる音だけを残して……… 「えぇ…? 俺、置いて行かれた…!」 「十碧君もさっき玲を置いていったからね。仕返しかも」 「えっ、うそ!あきくんそんな大人気なくないし!」 「いや。十碧君と逢うようになってから、大分大人気なくなった」 「……マジすか」 なんてこったい! 仕返しってことは、……あきくんも元カレか元カノに会いに行ったってこと? ───な訳あるかい!! あきくん、俺が初恋って言ってるもん。 それに、そんな不義理なことは絶対しない! 俺の──俺だけの王子様だからね。 俺は断固、陽成さんの言葉に惑わされません。 あきくんを信じます! ・・・ ・・・・・・ ・・・・・・・・・ 「………初恋は俺って何度も言ってくれてるからアレなんですけど…、俺、あきくんの初コイビトでもあるんですよね…?」 「ん〜………。どうだろうね?」 「〜〜〜〜っっ」 役立たずのお兄ちゃん! 笑いながら曖昧な返答をするんじゃなーーーっい!!!

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