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第94話
「まあ、エロいのは否定しませんよ。俺だってオトコノコですからね!」
ふんっと胸を張って言い切れば、陽成さんは「おぉっ、カッコイイ!」と笑って手を叩いた。
はい、わかります。
褒めてるフリをしつつの、俺のことバカにしてんでしょー?
「…うわっ、十碧君、その目ヤバいね。もしかして俺のことすっごい蔑んでない?」
目がヤバいとか、失礼だし!!
「兎に角、陽成さんはあきくんが帰ってきたら、訂正の上で謝罪してくださいね。騙して遊んでたコト」
「えー?訂正しなきゃダメ?」
「ダメに決まってんでしょーが!死・活・問・題!!」
ヘラヘラ笑ってる陽成さんに指をビシッと突き付けてから、これみよがしに大っきな溜め息ひとつ。
顔を逸らして、ソファーに座る陽成さんを避けるようにラグの上に腰を下ろした。
「……まあ、後悔しないならいいけどね。男同士で」
ぼそりと聞こえた独り言に、目を上げる。
「後悔なんてしませんけど。俺、そもそもゲイですんで」
「君はそうだろうけどね。うちの子が」
「…俺が初恋って言ってたし、あきくんだって、男が好きなんじゃ…」
「たまたま、初恋の相手が男だったってだけの話で…。心が受け入れられたからって、体までそうだとは限らない。
男の体じゃやっぱり無理だったと気付いた時、あの子はその事実を仕方のないことと割り切れずに、自分を責めてしまうだろう」
「それ…は……」
「ハッキリ言わせてもらうとね…。俺には、知り合ったばかりの君の死活問題より、ずっと可愛がってきた弟の心のほうが大切なんだよ」
静かな、…穏やかな声音の中に感じるのは、強い拒絶と、……敵意?
味方だ、って…。俺のこと、認めてくれてるんだろうって、そう感じてた。けど……
俺は、勝手に陽成さんのことを理解者だって、……思い込んでただけだったんだ…。
振り向いて、彼の目を見て。そう──思い至った。
向けられた視線は冷たくて……
今まで軽口を叩けていた相手とは、とても…思えなくて………
「──よく そんなモノ付けて、戻って来られたな?」
自らの首をトントンと、指先で突付いて見せる。
おんなじ場所──俺のソコには、鞍馬に付けられた噛み痕がある。
「玲が戻って来る前に帰れよ?───前の男のトコに」
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