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第96話

「そう。俺が泣かせたの。…だったら?」 「理由によっては、謝っても許さない」 兄弟喧嘩と呼ぶにはあまりに冷え切った声の遣り取りに、心が寒さを訴える。 だって、俺の知ってる兄弟喧嘩って、ひとりっ子から見て羨ましくなるくらい、熱くって全力で…… それで、お母さんに叱られて渋々仲直りした筈なのに、いつの間にかくだらない事で笑い合ってる。 ───そういうものだったから。 それが、こんな冷たい表情での会話。…ううん。言葉のぶつけ合い。 俺の所為だって分かるから、止めなくちゃ、とも思うんだけど、でも…… そしたらきっと、「じゃあ別れて」ってなるし、あきくんが「わかりました、十碧と別れます」ってなる訳無いと思うし、俺だってゼッタイに、別れたくないし!! どうするのが最善…? やっぱりここは俺が一旦引いて、忘れられた頃にヨリを戻すのが正解? ……で、でも、………やっぱり一秒だってあきくんと別れたくなーいっ!! 「謝る気はないよ。それどころか、今日この日に、俺に忠告されてこの子と別れたことを、玲は近い将来 正解だったと思い知るようになる」 「は…、え?……十碧に、別れろって言ったの?」 「当たり前だろう? 家族だったら誰もがそう言う」 「どうして…、そんな酷いこと……」 あきくんの腕に力が籠もる。 俺も震える手であきくんの背中をきゅっと抱き返した。 「酷いのはどっちだよ…?  別れた前の男に会いに行ったかと思えば、2人きりで一体何処にしけ込んだんだか、噛み跡にキスマーク?  お前、馬鹿にされてるとは思わないの?」 ………ん? はいっ!? ん!? いや、まてまてまて……!!! 「…俺、2人きりでなんて会ってない」 「は?なに」 「だから、会ったの中学校の近所の児童公園で、小学生いっぱい居たし、」 「はあ?」 「キスマークなんて付けられてないしっ」 「は!? いや、じゃあ首のソレ、なんだよ!?」 「それ、僕が付けたキスマーク……」 「は!? ちょっと待て!意味が…」 「だから、十碧の噛まれた痕が痛そうで可哀想で、キスしてるうちについ…吸いついてしまっていて…」 「えっ…、と……、じゃあ、ご休憩でホテルにしけ込んで、噛まれた上にキスマークまで散々つけられたビッチな十碧君は……」 ………………プチッ 「だぁれがビッチじゃい!!」 「すいっっませんでしたーー!!!」

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