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第98話

信じられない…と呟くと、あきくんは重たく息を吐き出した。 「ごめんね、十碧」 「っううん!あきくんは何も悪くないよ!」 ほんとに、何ひとつ悪くないあきくん。なのに、本当に申し訳ないと思って謝ってくれるんだ。 なんて潔いのでしょう、俺の王子様は。 それに比べてこの人は…… 「兄さんは、僕が十碧にずっと片想いしてたのを知ってるんだよね?」 「……そうですね…」 「十碧も僕のことを好きになってくれて、2人で幸せになろうね、って時に……」 な…、なんだろ…? 部屋の温度、二、三度下がった? いつの間にかエアコン切れてたのかな? なんだか急に背筋が寒くなったんだけど…… 「よりにも寄って、十碧を傷付けて泣かそうなんて………」 あ、いやコレ違うわ。 部屋の温度云々じゃなくて、ゴゴゴゴ…って地鳴りさえ聞こえる気がする、あきくんの氷点下の怒りの波動。 それが急激な冷え込みの原因だ。 その証拠に、あきくんの視線の先の陽成さんは、雪の日に半袖半ズボンで表に放り出された人のごとく、青い顔してガタガタ震えちゃってる。 かなり格好悪い。 「あのっ……」 「……なに?」 返すあきくんの声が低い。極限まで低い! 「っ、……た、たいっっへん、反省しております…」 「反省?してたら、どうするのが正しいか、わかっ…」 「十碧君っ!ほんっっとごめんね!!」 うわっ! 食い気味に謝られた…! だけどさぁ…… 「えっ、いや、……謝られても…」 謝られてチャラ、って話でもないし。 俺、尊厳をかーなーり、手酷く傷付けられたし。 ビッチ扱いされたこと、謝罪ぐらいで許すお気楽じゃないし。 でも、俺に「許す」って言わせたいんだろうなぁ、この人は…… 困ってあきくんを見上げると、すっごく申し訳なさそうな顔で「ごめんね」って、頭をよしよしされた。 ───許しましょう! ……って、違うわ! あきくんに対しては、これっぽっちも怒ってないっつの。 逆に今、陽成さんの変な言いがかりの所為で、あきくんの中のタイムラインに『#十碧ビッチ説』が急上昇しちゃってたらどうしよう!?って心配で身が焦がれそうな事態だわ! 「あの、ね? あきくん…」 「ん?なあに?」 ふんわり優しく微笑んでくれたあきくんの声は、いつもと同じで甘さ100%。 「あぁ…玲…!お兄ちゃんにもその半分でいいから優しさを…!」 ……………。 うん。ブラコンの過ぎるお兄ちゃんの声は聞こえてないことにしよう。それがいい。 「俺、他の人でいいなんて ないからね?」 「っ、…うん、わかってるよ」 一瞬 陽成さんを尖った瞳で流し見て。 こっちに振り向いた時には嬉しそうにほっぺたちょっとだけ赤く染めて、目を細める。 頬に触れる手は労るように優しくて…… 「俺、あきくんがはじめてで、……あきくんが最後がいいなって思ってる」 「──うん。僕もだよ」 微笑みが深くなる。 顎を指先で優しく掬われて、そっと目蓋を下ろせば、唇にキスが落とされた。 「いたっ…」 「十碧…?」 さっき噛んで切れたトコが痛んで思わず声を上げれば、それに気付いたあきくんは「可哀想に」って悲しそうな顔をして、唇をペロリと舐めてくれた。 「後で薬 塗ろうね」 それからほっぺにちゅー。 耳朶にも。目蓋にも。前髪を上げておでこにも ちゅってすると、あきくんは俺の体をぎゅーっと抱きしめる。 顔と、身体が熱い。 えっちぃのと違って、ただただ溢れて止まらない愛しさを伝えてくるキスと抱擁に、きゅーーって胸が締め付けられて。 苦しくて、息が出来ない。 溶けちゃいそう…… 「この先ずっと、十碧は僕だけの十碧だから、」 「うん」 「他の男の前で、隙を見せないように」 「はい」 「泣き顔も可愛いんだから、涙も見せちゃ駄目だよ」 「ははっ、そうなの?」 「うん。だから辛いことがあっても、その場では泣かないで我慢して、僕の胸で泣きなさい」 「ふっ、……は〜い♡」

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