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第100話

リビングを出ていく陽成さんに、「玄関の鍵、掛けておいてね」と声を掛けると、あきくんは改めて俺と向き合った。 目が合えば微笑んで、俺のドキドキを更に加速させる。 キラキラキラキラ…もう、輝きが溢れ出して止まらない! 「いってきます」の声に、あきくんは振り返らずに「いってらっしゃい」と声だけ返した。 俺を見つめてるからなのか、声音もすこぶる優しい。 ……いいなぁ。俺もあきくんに、「いってらっしゃい」って見送られたい。 そんで、「おかえりなさい」って出迎えられたい。 「ただいま」って帰ってきて欲しい。 まあ、両方の親公認だし、いつかはそうなるんだよね。嫁入りするにしろ、婿に来てもらうにしろ。 お嫁さんか……… うぅ…、今日みたいに、あきくんのいないトコで陽成さんにイビられたりするのイヤだなぁ…。 だったら うちに婿に来てもらった方がいいか。 俺が家を出たら、父さんが淋しがるだろうしなぁ。 あの人、俺のことちょっと娘ポジで見てるトコあるし。 継ぐ家があるわけじゃないけど、一応ひとりっ子の長男だし。 んでも、あきくんの家は一軒家。 俺の家はマンション、2LDK。 今 俺が使ってる部屋にあきくんと2人、じゃあ……さすがに狭いな。ベッドもおっきいのに新調しなきゃだし、そしたら部屋もっと狭くなっちゃうし。 …てか、そんなことより!親が居る所為でなんにも出来ないじゃん、俺たち! やっぱり、新婚夫婦はふたり暮らしが妥当かな。でも親(特に父さん)が許してくれるかなぁ? う〜〜ん……。 「十碧、ちょっと唇滲みるよ」 「ん?」 いろいろ考えてるうち疎かになってた周囲の気配。 断ると同時に、目の前に伸びてきた滑らかな指が唇に触れた。 ヌル、トロリとしたものを痛みを感じない程に弱いタッチで、そ〜っと塗り込まれる。 「髪、乾かそうね」 「うん」 ブワッと温かい風が髪を揺らす。 どうやらあきくんは、いつの間にかドライヤーを取りに行ってくれてたらしい。 細く繊細な指が、風の先で髪を梳く。 優しくて柔らかで、あきくんそのものな心地好い触れ方。 その気持ちよさに、俺はうっとり瞳を閉じた。 「うん。かわいい」 ドライヤーの風が止んで目を開けると、あきくんがニコニコしながら俺を見てた。 「あきくんの髪は? 俺、乾かそうか?」 「えっ…、いいの?」 「うんっ」 ビックリから一点、しあわせそうにとろりと微笑うと、お願いします、とドライヤーを手渡された。 「っ───!!!」 顔がブワッと赤く染まったのは、俺があきくんを好きすぎるからだけじゃ無い気がする。 そんな甘くて溶けちゃいそうな眼差しと声でお願いされたら、全国の美形好き 誰もが骨までメロメロに溶かされちゃうよ…。 あきくんはさ、もっと自分の王子様っぷりを自覚して、自重すべきだと思います! ………ん〜…、でも……、やっぱり俺に向けてだけは、惜しみなく披露して欲しいかも……。 よ〜〜っし。心を強くして受けて立つ! ばっちこい! 俺だけの王子様!!

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