101 / 120
第101話
髪を乾かしあったあと、部屋に行こうと誘われて、あきくんの自室へ移動した。
どうぞって促されて、ベッドに腰を下ろす。
あきくんの部屋は、あきくんの匂いでいっぱいのステキ空間。
その中でもこのベッドは、特に薫り高いユートピアだ!
さっそく、枕を抱き締めて香りを嗅ごうと鼻を近づけたら、すかさず取り上げられて遠くに放り投げられた。
………ちっ。
「十碧、こ〜ら。舌打ちしない」
「はっ!」
心の中の舌打ちは、どうやら表に出ていたらしい。
ごめんなさい、と謝れば、すぐに笑顔になって頭を撫でてくれた。
素直。これ大事。とっても。
「そんなことより十碧」
そんなことって……
俺にとっては至宝の枕。そんな風に片付けないで貰いたい!
「首、手当してもいい?」
「首? 別にいいけど…」
そんな酷い傷でもないだろうから、放って置いてもそのうち勝手に治る。
だから、別にやらなくてもいいけど…、って意味で答えたんだけど…。
「化膿止め塗って、絆創膏貼るから、少しだけ大人しくしててね」
ドラッグストアのビニール袋からガサリと取り出されたそれらを見てしまえば、手当なんて要らないなんて言えなくなってしまう。
俺は従順に、傷付いた首を差し出した。
「もしかしてさっき、ひとりでそれ買いに行ってくれたの?」
「うん。…あ、そうか。行き先伝えずに出掛けたから、不安にさせちゃった?」
「ううん。大丈夫」
ほんとは、陽成さんに「仕返しで元カノ(カレ?)に会いに行ったんだろう」なんて言われて、ちょっと気にしたりもしたけど……
武士の情けだ。
あきくんには話さないでおいてやろう。
機嫌直ってるかなぁ…って気にしいで帰ってきて、新たな理由で怒られるのとか結構辛いだろうし。
「それとね、さっき堂上に電話して…」
首にドデカイ絆創膏をぺたり。
よくこんなおっきいの売ってたな、と驚くサイズの真四角絆創膏。
もしかしたらこれを探して、近所のドラッグストアをハシゴしてくれたのかもしれない。
「ん…? 堂上先輩…?」
なんでここで突然 堂上先輩の話に?
……はっ!もしや堂上先輩、大手ドラッグストア チェーン店を牛耳る会長の孫、跡取りの御曹司だとか!?
「十碧…? あの、堂上が御曹司って話じゃなくてね?」
はっ!また声に出してた!?
「色々…その、堂上に聞いて、勉強したので…、」
「あっ!堂上先輩繋がりで、陽成さん、平茅先輩から呼び出されたの?」
「うん。そう…なんだけど…」
「俺とふたりっきりになりたかったから、呼び出すように言ってくれたの?」
「……うん」
っ───くうぅっ!
恋人と二人きりになりたくて友達使って実の兄を追い出すとか!
チョイ悪あきくんも素敵じゃないスか!!
「あの…、う〜ん……」
俺から発されるラブラブビームに照れているのか、……いや、照れてるんじゃなさそうだな、コレ。
なにか考えてる顔して、目を泳がせてるあきくん。
う〜ん…?? ………あっ!泳ぐと言えば、夏休み!
ご一緒にプールや海はどうですか!?
え?話の脈絡?
そんなんより、欲求の報告の方が重要でしょ!
だって見たいもん!あきくんの水着姿!!
同級生は夏場 見放題だったんだよなぁ……。
堂上先輩も平茅先輩も、他の先輩たちも体育の先生も、俺より先に……、みんなズルいっ!!
ともだちにシェアしよう!