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第108話

暫くそうして俺の太ももに唇を這わせていたあきくんだったけど…… 「十碧、……いい?」 とうとう……その細くて長い指が、やんわりと秘所に触れた。 それは待ち望んだ、夢にまで見た瞬間─── だと言うのに…… ───たまたま、初恋の相手が男だったってだけの話で…。 心が受け入れられたからって、体までそうだとは限らない。 俺の頭は、まだ記憶に新しいその言葉を不意に拾ってしまって………… ───男の体じゃやっぱり無理だったと気付いた時、あの子はその事実を仕方のないことと割り切れずに、自分を責めてしまうだろう。 ………頷けなくなって、俺は、咄嗟に首を横に振った。 「──っ、だッ、だめっ…!」 「………十碧…?」 断られるなんて思ってなかったんだろう。あきくんはきょとんとして目を丸めると、ソコをくるくる弄んでた指をそっと離した。 「……やっぱり嫌だった…?」 「ちがっ…、イヤとかじゃなくて、」 「怖いから、まだダメってこと?」 宥めるようにやわらかな声に、首を横に振る。 怖くないし、嫌だなんてとんでもない。 ただ、その優しい眼差しが、俺相手じゃ無理だったって絶望して、罪悪感に染まるところ……… そんな場面を、見たくなくて…… はじめての経験が。自分が変わってしまうんじゃ。そんな心配は欠片もしてない、けど…… ──────ああ…、そうか……… 確かに俺は、怯えてるんだ。 怖いんだ。 あきくんを傷つけてしまうこと。 この綺麗な人を汚してしまうことが。 そしてそのことが原因で、俺から離れていってしまうことが………なによりも、怖い。 「………あの、」 「うん?」 穏やかな瞳が、やさしく細められる。 「やっぱり、その……挿れなくていいよ。お尻…だしさ、やっぱり…きたな…」 「汚くないよっ!」 迫力に気圧されて、最後まで言葉を続けることができなかった。 一瞬前の静かな瞳は鳴りを潜め、その整った相貌に、見たこともない深い眉間のしわが刻まれて。 「っ……で、でもっ、……だって…っ」 「“でも”じゃない」 さっきまで、あんなにやさしい顔して俺のこと見てたのに…… あきくん、怒ってる……? 「………うっ…、やだ………きらい…なんの……やだぁっ…」 「ちょっ…と、十碧!? どうしてそこで“嫌い”が出てくるの? 誰が誰を嫌いになるの!?」 「っ……うぇぇ…」 「あ、…ほら、もう、どうしたの。泣かない、泣かない」 「あきくんがおこったぁっ」 「怒ってないよ。怒ってないから。ほら、いいこ。十碧、いいこ」 ぎゅーっと()し掛かるように抱き締められて、頭を撫でられる。 「けどね、僕の十碧は何処も彼処も綺麗で、汚いところなんて一つもないんだから」 まるで愛し子に言い聞かせるような声で。 「十碧はお尻の穴だって淡いピンクで可愛くて綺麗なんだから、汚いなんて言わないの」 とても可愛い我が子に対して言うような内容じゃないけど。 安心させるように背中をポンポン撫でながら、あきくんは少し怒った声で言う。 ……でも、そうは言ってくれるけど、それでもやっぱりお尻の穴なんて綺麗じゃないと思うし……。 「なあに?不服そうな顔して」 ちょっと体を離すと、指先で俺の頬をツン。 「十碧、言ってたよね。僕の為に、綺麗にしてきてくれたって」 「………うん…」 「じゃあ尚更、汚いところなんて何処にもないよ。他には何かある? 気にしてること」 体の両脇に腕をついて、逃げ場を奪われる。 俺があきくんの顔に弱いって知ってて、自分で視界いっぱいにしてくるなんて…… ちょっと…卑怯だと思う……。

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