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第116話
翌日、奢りの約束を取り付けた堂上先輩と、ついでの平茅先輩&陽成さんとランチを一緒にするべく、俺とあきくんは昼ちょっと前くらいに待ち合わせの焼肉屋へと向かっていた。
堂上先輩に直接文句言わなきゃ!って俺は鼻息荒くしてたんだけど、同じ気持ちかと思ってたあきくんは……
「十碧に余計なこと吹き込んだこと、後悔させてやらなきゃ……」
怒りの矛先を実の兄である陽成さんに向けているらしい。
地を這う声音で呟いたあきくんが、キラッキラの王子様に有るまじき黒い表情を浮かべていたなんて事実、できれば気づかなかったことにしたい……。
あ、そんなことより! 卒業式明けて昨日の今日で、もう揃ってランチなんて、あきくんたち3人はホントに仲が良いんだなぁ。←現実逃避
あきくんの家から目的の焼肉屋へ向かうには、うちの学校の最寄り駅の前を通る。
今日は休みだから見掛けないけど、平日の朝や下校の時間なんかにはうちの生徒でごった返してるそこら辺。
通りすがりがてら、なんとなく目をやって。
「げっ………」
見なきゃ良かったと、咄嗟に目を反らした。
いや、いいんだけど別に……どうでもいいんだけどね!
「トア! テメェなにシカトしてやがる。今 目ェあっただろーが!」
今カレと一緒の時に元カレと遭遇とか…!
いや、もうどーっでもいい奴だから、ほんとどーーっっでもいいんだけど!!
「あー……、プライベートでデート中なんで、すみませんけど」
「ゲーノー人か!」
キレのいいツッコミを入れられた。
「十碧、こっちにおいで。危ないから」
こっちはこっちで警戒心バリバリ。
そっと抱き寄せてから俺を背中に庇うあきくんは、鞍馬のことを獰猛な野生動物かなんかだと思ってるんだろうか。
……って、そうだ! コイツいきなり人様に噛み付く男だった! 正真正銘野獣じゃんか、獰猛そのもの、野獣!
無意識に、昨日噛まれたとこを押さえてたらしい。
鞍馬がニヤッてして、自分の首筋を指でトントンした。
───瞬間、感じたブリザード。
勢い良く振り返ったあきくんが、絆創膏の上から首に唇を押し当ててくる。
王子様、大変ご立腹です。
2人の間にピリッと鋭い空気が走る。
煽ってくんのマジやめて欲しい。
「あー…、あのさぁ。昨日から俺、あきくんと付き合ってるんで、鞍馬は今後、学校や地元で会っても俺に絡んでこないように」
「ああ?関係あっか?」
「あるんだよバカ」
ほら、鞍馬がバカな返しする所為で、あきくんが俺を抱きしめる手に力が増したじゃないか。
「へぇー。それはよかった」
ふと話に入ってきた声に、顔を向ける。
女の子でもおかしくないような、高音の少年ボイス。
鞍馬が(身長も態度も)デカイ所為で気が付かなかったけど、その後ろに俺より背の低い華奢な身体が隠れてた。
女子にも見える姿。いや女子より可愛いんじゃないかって、うちの男子校 で騒がれてるちょっとした有名人。
俺のクラスメイトで、鞍馬の最終の浮気相手だった、アサトだ。
まあ、俺の好みで言えば、アサトよりも怜と月都の方が顔も中身も十倍可愛い。
アサトはなんでか良く俺に突っ掛かって来るしさ。(それもまあ、鞍馬のことが好きだったからって考えれば、納得の行動ではあるけど)
でも、鞍馬がアサトと浮気したお陰で、……ん?お陰で?
……まあいいや、そのお陰で鞍馬と別れられて、あきくんと付き合えるようになったって解釈すれば………
感謝しないでもないな。うん。
そもそも、アサトが感じ悪いから苦手なだけであって、俺 可愛い子は基本嫌いじゃないし、見た目だけなら好きな方。
鞍馬がアサトと真面目にお付き合いすれば、もう俺絡まれる必要もなくなるだろうし。
いっその事、アサトに恋愛協力して仲良くなるってのはどうだろう。
そしたら、あきくんが卒業して潤いの無くなった男子校生活、ちょっとは華やかになるんじゃないだろうか!
見た目可愛い知り合いってアサトしかいないし、仲良くしといて損はないんじゃない!?
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