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第117話

「あきくん。こちら、クラスメイトで友達のアサトくん。鞍馬の新しい恋人です」 「えっ、あ、……そうなんだね。十碧の恋人の七瀬です。いつも十碧がお世話になっています」 「あっ、いえ、あのっ、こちらこそ……。って、ちょっと鈴原っ!誰が友達だよ!?」 アサトがなんか吠えてるけど気にしな〜い。 キャンキャン言ってる小型犬は無視の方向で、俺は隣の大型野獣に向き直ると、その顔面に向かってビシッと指を突き付けてやった。 「鞍馬。アサトのこと、ちゃんと大切にしてあげなよ。浮気すんなよ」 「いや、別に付き合ってねぇよ」 「付き合ってないならエロい事すんな!」 「それとこれとはカンケーねぇだろ」 メチャクチャ関係あるわ! どうなってんだ、お前の貞操観念!! あきくんなんかな、付き合う前に手 出さないようにって、男同士のエッチの仕方、調べることすらしなかったんだぞ! あぁ、尊い。当たり前のことが当たり前にできる、そんなあきくんがとっても眩しい! 見てみろ鞍馬! このキラッキラの純白王子様を! 汚れきった自分と比べてみやがれってんだてやんでえ! 「十碧、どうしたの? 急に江戸っ子みたいなこと言って」 どうやら俺は「てやんでぇ」だけ声に出してたらしい。恥ずかしいなコンチキショーめ! 「えぇと……、兎に角アレだ。アサト! 4月からも同じクラスになれるといいね!」 「え"………、なんで…?」 アサトは怪訝そうにこちらを見ている。 どうしますか?  脅かす ◆褒める 「だって俺、基本 可愛い子好きだもん」 「十碧…! ダメだよ!同じクラスになっちゃ駄目!」 おっと……。違うターゲットにクリティカルヒットした……… 「えっと…、違うんだよ、あきくん」 「……どう違うの?」 そのジト目は、説明を求める!と訴え掛けてきてるんでしょうか……? 「んと…、例えば、俺とアサトでカップリング考えるとさ、十碧×アサトになるでしょ? でも、俺ってネコじゃん。アサトもネコでしょ? 受けと受けじゃカップリングが成立しないんだよ。ツッコミ棒が無いからね。俺、がっつり受け入れたい派だから」 あれ…? まだ納得できてない……? というか、もしかして理解ができてない? ………はっ! あきくんにBL知識が無いの忘れてた!! 「うぅんと……、あ!ほら! 俺の中学の友だち会ったでしょ? 怜も月都も可愛かったじゃん! 俺はああ云う可愛い子に、日々の潤いを求めてるんだよ!」 「潤い……?」 「潤い…か」 あきくんはまだ怪訝そうな顔してるけど、俺の説明はどうやらまた別のターゲットに刺さったようで。 「……たしかに、男子校基本ムサいから、綺麗なものを目に入れてたいって気持ちはわからなくもないな…。鈴原も、顔だけなら美形の(たぐい)だし、悪くないかも」 「! あきくん、アサトに褒められた!」 「何言ってるの。十碧は誰よりも綺麗で可愛いんだから、美形の類じゃなくて美形そのものです」 「えっ!? 美形そのものって言ったら、美の化身のあきくんの事でしょ!」 「十碧からはそう見えてるの?…ふふっ、嬉しいなぁ」 「ナニ褒めあってやがんだコイツら。ついてけねぇ……」 「バカップル……」 別に褒めあってる訳じゃない。 俺の言ってることはただの真実だし、あきくんの言い分はまぁ…だいぶ加飾があるけど、そう思ってくれてること自体は素直に嬉しい。 恋人の欲目? 恋愛フィルター相当分厚いみたいで、それ剥がれた時がちょっと心配だけど。 「何を騒いでいるんだ。目立ってるぞ、お前達」 じゃあ今日から友達ね! え"っ…、友達はヤダ。なんでだよ!? そんな事でワイワイやってた俺達。 そこに呆れ声を掛けながら、やたらとデカイ人が駅舎から現れて、頭上にポンと掌を乗っけた。 俺…じゃなくて、あきくんの頭に。

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