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第5話
「……健気だね」
労るように優しく、背中をぽんぽん、と撫でられた。
この人は一体、俺達のことを何処まで知ってるんだろう…。
「健気なんかじゃないですよ。浮気されれば怒るし、文句言うし、その度 別れるって言ってるし」
「でも、別れない」
「だって、…なんか、もうしないって言うから、最後の1回…って思って……」
嘘か真実 か、『本命はお前だから』なんて言葉に乗せられて。
知る限り、浮気相手は巨乳の女ばかりだったから。
ああ…この人は本当は女が好きな男なんだ。なのに好きになってくれた俺は男で。胸も無けりゃ柔らかくもない男で。
そりゃあ、一緒に居ても触れたくなったりしないよね。女と浮気をしたくなったって、って……
ああ、確かに。
そんな風に自分を納得させてた俺は、健気だったのかもしれない。
でも、さ……鞍馬は、初めて俺に好きだと言ってくれた『男』だから。
男を好きな男の俺には、次が現れるかも分からない、最初で最後かもしれない人だったから。
失くすのが……怖かったんだよね。
許していたわけじゃなくて、俺が離れられなかったんだ。
ズルイのは……俺もおんなじ。
「鈴原君なら、もっと大切にしてくれる人ぐらい、すぐに見つかるのに」
心の中を読んだようなタイミングで、先輩が囁いた。
甘言。いくら男しか居ない男子校に通ってるからって、そんな相手がすぐになんて見つかるもんか。
「じゃあ、先輩が大切にしてくださいよ」
「っ…」
ビクンと反応する身体。
そんな風に返されるなんて思いもしなかったんだろう。
どうだ。一番株に甘えられた気分は。
……どうせ、その場限りの慰め文句だったんだろう?
「あの…、鈴原君…?」
「はい?」
「……僕でいいの…?」
「ん?…んん?!」
「僕でいいなら、大切にしたいけど、えっと……笹谷とは、もう別れましたか?」
えっ、…ちょっ、待っ………
なんですと───っ!?
なんでそんな表情 してそんなコト訊いてくんだよーっ!?
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