6 / 120

第6話

な、なんだろう……バクバク…心臓がバクバクしてきた……! 先輩が変なこと言うから、妙に意識しておかしくなっちゃってるんだ。きっと…! 「そろそろ温まったかな…」 なのに先輩は、焦る俺には気付かず独りごちると、俺の体をひょいって軽々持ち上げ床に下ろす。 「熱を分けるって意図無く抱き締めてたら、こっちも浮気になっちゃうから、ね」 冗談めかして笑うと、今度は椅子に直接座るようエスコートしてくれる。 細身に見えるのに意外と力強いとか、 紳士的な仕草とか、 ふんわりとした柔らかな笑顔とか…… モテるだろうな、この人。 女にも、男が好きな男にも。 これで勉強やスポーツも出来て生徒会役員や学級委員長、部長なんかやってようものなら、完璧じゃん。 完璧、極上の男じゃん…… ポーッと見つめてると、先輩は困ったように笑って首を傾げた。 なあに?って目で問い掛けられて、首を横に振る。 恋愛対象が同性の俺には目の毒だ。 「鈴原君…」 物言いたげに名前を呼ばれて、今度は俺が聞き返す番。 呼ばれた意味を問うように見つめ返すと、先輩は膝を折って目の高さを合わせた。 王子様みたいだな…と見惚れちゃうのは、その整った甘いアイドル顔の所為だろう。 鞍馬もイケメンって言われる類の男だけど、もっと男臭くてカッコつけ。ハッキリ言ってガラが悪い。 先輩は、綺麗な上に立ち振る舞いまで洗礼されてる、嫌味の無い美形って感じ。 例えるなら、盗賊団の頭と王子殿下。 こんな人が同じ学校にいるのに気付かなかったなんて……、それだけあの浮気男に夢中だったってことか、俺? それとも、鞍馬が俺の目を塞いで見えなくしてた? 「俺と一緒に、卒業しませんか?」 「え………?」 思考を目の前の人に戻す。 卒業……?何の話…? 「…俺、まだ1年生ですけど……?」 「うん」 「うん…?」 「俺は、この高校から」 「………」 「君は、浮気されても何度も許して泣かされ続ける日々から、一緒に卒業しませんか?」 「っ………!!」 カーッと耳まで一気に熱が上がって、慌てて両手で顔を隠した。 なんで!? どうして!? 俺の秘密の恋愛事情、この人にはドコまで知られちゃってんの───!?

ともだちにシェアしよう!