7 / 120

第7話

「第二音楽準備室」 視線を絡ませたまま、先輩がポツリと呟いた。 そこは…! そこは、俺と鞍馬の密会の場だ! 第二音楽室は、鞍馬の所属する軽音部の部室で、鞍馬はその準備室を我が物顔で使ってた。 部活のある日もない日も昼休みも。 窓側のソファーの上が、鞍馬の定位置。 俺も良く遊びに行っては、その隣に座ってた。 隣の第一音楽室の準備室から時折漏れ聞こえるヴァイオリンの音色が心地よくて、寄り掛かって眠っちゃうことも少なくはなかったっけ。 浮気される度 怒鳴り込むのもいつも其処だった。 秘密の交際。人前で話せる内容じゃなかったから。(と思っていたのは俺だけだったみたいだけど) 「真隣の第一音楽室は管弦楽部の部室でね。でも僕は三年生で引退した身だから、昼休みや放課後に準備室を使わせてもらって受験の息抜きにヴァイオリンを弾いてた。もうやめちゃったけどね」 「ヴァイオリン……」 あの心地良い音は、この人が出していたのか…… 柔らかくて優しい、子守唄のような 母親が幼子を包み込むような音色だったから、てっきり女の先生が弾いてるものだと思ってた。 でも、男の人でも…この人なら、そんな風に弾けるのかも…… やめちゃった、なんて……もったいない。 「初めて聞いたのは、6月だったかな…。隣の準備室のドアが勢い良く閉じる音がして、また浮気しただろ、今度こそ別れる、って。しとしとと降り続く雨音をかき消す大きな声で」 「っ……!!」 ヴァイオリンの音に記憶を飛ばしていた頭に、ガツンと攻撃を食らった! 「……ドア閉めてても聞こえるものなんですね…」 ヒクリと口元を引き攣らせながらそうとしか返せなかった俺に、先輩は苦笑を向けてくる。 それから、ヴァイオリンの音も聞こえてなかった?って。 確かに、聞こえていましたとも……あぁ…… 「2回目は夏休み前。フザケんなって泣きながら部屋から飛び出してくるのを見掛けた。それで、一体どんな子が浮気で泣かされてるんだろうって興味を持つようになって」 「そんな…下世話な…」 「ごめんね。でもそうして、第二に入っていく君を良く見るようになって、また浮気されたって泣いてる姿を見掛けたら───」 先輩はそこで息を詰め、俺を見つめ、切なく目を細めた。 「僕ならもっと大切にするのに…、泣かせたりしないのに、って。そう思ったんだ」 「?………!?………っ!!」 「さっき、独りで雪に濡れてる君を見て、もっと強く思った。君のことを攫いたい」 「~~~っ!!」 これは───! いくら鈍感の名を(ほしいまま)にしてる俺だって分かってしまった…! 鞍馬から奪いたいって事だ…… 俺に愛の告白してるんだ…、この──王子様が!! 「鈴原君、君のことが好きです。  笹谷と別れて、僕と付き合って下さい」 ズバッと言われた───!!!

ともだちにシェアしよう!