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第8話
嫌悪感は皆無だった。
寧ろ、こんな綺麗な人から告白されてる俺スゴイ!って誇らしさすら覚えるくらい。
でもだからって流石にすぐに、よろこんで!なんて付き合えちゃうほど図太くはない。
「あの、俺…、今回はほんっとーに、鞍馬とは別れるつもりでいるんですけど」
「でもまた絆されちゃうかもしれない?」
「う……、いえ、そうじゃなくて」
校内で数回あったあの遣り取りを聞かれていたなら、その返しもやむを得ないか…。不本意ですけどねッ!
「そうならない為に俺、雪の中で頭冷やしてたんですよ。いつも頭に血ぃ上った状態で文句言いに行くから、上手く丸め込まれちゃうのかなって考えて」
そうして座って考え込んでる間に冷え過ぎて、凍えてることにも気付かないで固まっちゃってた訳なんだけど。
「あの、でも…ね」
告白は、はっきり言っちゃえば嬉しい…んだけど、問題点が2つばかり。
「俺、先輩のこと全然知らないです。だから、鞍馬と別れたトコで、先輩のことを好きになれるか分からない」
見た目とこの短時間で与えられた優しさと、それだけがこの人の持つ全てならきっと、俺は先輩を好きになると思う。
今だってもう、先輩に対しては好感しかない。だけど……
「それにね、俺が鞍馬と付き合ってること、皆にバレてるんでしょう? そんな中で、別れた途端、他の人と付き合うとか……」
とんだビッチだって思われないか(まだ未経験なのに)、薄情だって白い目で見られないか──そんな風に人目を気にする自分が居ないでもない。
鞍馬のことは多分、もう随分と前から、……諦めてたんだと思う。
ただ、ごめんって、本命はお前だからって引き留めるから、ズルズルと続いちゃってただけ。
気持ちは多分、もうとっくに…離れているんだ。
好きは好きだけど、一緒に居て心地の良い友達のような、兄に対する弟のような、好き。
「大丈夫だよ」
ふわりと頭を撫でる掌が 気持ちよくて目を閉じる。
「君と笹谷が付き合ってる事が周知の事実であるように、浮気される度に君が泣いてることも、とても有名だから」
「はいっ?!」
バチッと目を開けば、先輩は困った顔をしてまた俺の頭を撫でた。
「第二で揉めてる声が第一に聞こえてたって話 したよね。あれ、廊下にも筒抜けだったから」
「っ……!!」
「音楽室は防音だけど、準備室は他の教室と同じで、…ううん、もっと狭いから」
「~~~っっ!!!」
そうだ!そりゃそうだ!そうに決まってる!!
なんで今まで気付かなかったんだよ、俺のバカ~~っ!!
「そんな訳で。皆心配してたから、尻軽とは思われないと思うよ」
「そっ…そう…ですか……」
ダメだ………
恥ずかしくて、もう顔上げて校内を歩ける気がしない………
「僕のことを好きになってもらえるかどうかは、…ほんとに博打だと思うんだけど」
1つめの不安要素への回答は、なんとも自信の無い言葉。
先輩ぐらいの器量良しなら、十人に告って十人にOKもらえるのが当然だろうから、そんな弱気な言葉が飛び出すなんて思ってもみなかった。
試しに付き合ってみれば絶対に好きになるから、ぐらいの強気発言でモノにされちゃうと思ったのに。
「好きになってもらえるよう努力するから、…時々、僕と会ってもらえませんか?お試し期間じゃなくて構わない。ただの先輩と後輩として」
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