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第10話

「鞍馬は、さ…、多分、俺のことは好きなんだと思う。独り占めしたいくらいには」 俺の言わんとしてることにまだ気付かない鞍馬は、何を言われてるのか分からない顔をして俺を見つめる。膝の上でトントンしてる指先から苛々とした心情が伝わってくる。 「俺、校内では結構有名なんだって?綺麗な男の子って。そんな俺から懐かれてたらさ、鞍馬、中学の時だって自慢だったろ?」 「…まあ、な」 「自分が卒業した後、俺が他の男に鞍替えして、鞍馬のこと忘れて楽しくやってたら…さ、そんなの許せねぇって、鞍馬なら考えそう」 「それがどうした」 否定しないってことは、本人にも思い当たるフシが有るんだろう。 「これだけ言ってもまだ分からない?鞍馬は俺に恋なんてしてないって事。  だから鞍馬は、俺を抱きたいって思わないんだよ。もし恋愛感情で俺のこと好きならさ、鞍馬なら…俺が嫌がってもムリヤリにも挿れちゃうと思う。鞍馬、オレサマだもん」 「………マジかよ…」 鞍馬は前髪をくしゃりと掻き上げると、そのまま頭を抱え込んだ。 「そんな風に、無理して抱いて欲しくなんかないんだよ、俺は。心から求めてくれるなら、抱かせてあげたんだけどね」 頭を撫でると、少しだけ上がった視線。 額にちゅってキスを落として、にっこり笑ってみせた。 「だからさ、鞍馬。別れてあげる」 「ッ───」 浮気する度、俺が怒って泣く、そう云うのが好きだったんだろ? 俺が笑って別れを切り出すなんて、思いもしなかっただろう。 もう、愛されてる、なんて安心なんかさせてやんないよ。 アンタから、自由になってやる。 だから、 「仲の良い先輩後輩に戻ろう。  ───バイバイ、鞍馬」 一歩下がって手を振って、踵を返す。 息を呑む気配はしたけど、廊下に出て引き戸を閉めても、追いかけて来る足音は聞こえなかった。

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