10 / 120
第10話
「鞍馬は、さ…、多分、俺のことは好きなんだと思う。独り占めしたいくらいには」
俺の言わんとしてることにまだ気付かない鞍馬は、何を言われてるのか分からない顔をして俺を見つめる。膝の上でトントンしてる指先から苛々とした心情が伝わってくる。
「俺、校内では結構有名なんだって?綺麗な男の子って。そんな俺から懐かれてたらさ、鞍馬、中学の時だって自慢だったろ?」
「…まあ、な」
「自分が卒業した後、俺が他の男に鞍替えして、鞍馬のこと忘れて楽しくやってたら…さ、そんなの許せねぇって、鞍馬なら考えそう」
「それがどうした」
否定しないってことは、本人にも思い当たるフシが有るんだろう。
「これだけ言ってもまだ分からない?鞍馬は俺に恋なんてしてないって事。
だから鞍馬は、俺を抱きたいって思わないんだよ。もし恋愛感情で俺のこと好きならさ、鞍馬なら…俺が嫌がってもムリヤリにも挿れちゃうと思う。鞍馬、オレサマだもん」
「………マジかよ…」
鞍馬は前髪をくしゃりと掻き上げると、そのまま頭を抱え込んだ。
「そんな風に、無理して抱いて欲しくなんかないんだよ、俺は。心から求めてくれるなら、抱かせてあげたんだけどね」
頭を撫でると、少しだけ上がった視線。
額にちゅってキスを落として、にっこり笑ってみせた。
「だからさ、鞍馬。別れてあげる」
「ッ───」
浮気する度、俺が怒って泣く、そう云うのが好きだったんだろ?
俺が笑って別れを切り出すなんて、思いもしなかっただろう。
もう、愛されてる、なんて安心なんかさせてやんないよ。
アンタから、自由になってやる。
だから、
「仲の良い先輩後輩に戻ろう。
───バイバイ、鞍馬」
一歩下がって手を振って、踵を返す。
息を呑む気配はしたけど、廊下に出て引き戸を閉めても、追いかけて来る足音は聞こえなかった。
ともだちにシェアしよう!