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第12話
「………おみず…」
瞼を開くのも億劫で、手探りでペットボトルを探す。
「はい、どうぞ」
「あ……ありぁとぉ」
探し物を渡してくれた手にお礼を言ったけど、うまく呂律が回らなくて舌っ足らずな口調になった。
まだ熱は下がってないみたいだ。
「起きて飲む?」
「…ううん」
「溢さないよう支えてるね」
「ん……?」
うっすらと目を開く。
見えたのは、母さんのものよりも大っきな手。母さんより白くてスラッと伸びた長くて綺麗な指だけど……
誰? とその顔に視線を合わせて、
「……ひやっ!?」
思わず布団を跳ね上げ起き上がってた。
「…ふにゃぁ……」
だけどすぐに頭がクラリと揺れて、布団に沈みこむ…既 でその人に体を支えられた。
「大丈夫?まだ熱が高いんだから、大人しく横になってなさい」
「………あの、…せんぱい?」
「はい」
間違いない、七瀬先輩だ…!
なんで…なんでこんなキラッキラな人が、俺の部屋にいるんだ!?
一瞬、壁に貼ってある男性アイドルたちのポスターから誰か飛び出してきちゃったのかと思ったよ?!
「喉乾いてるでしょう?飲んで」
「はい…」
「ご飯食べられそうなら、お母さんがお粥作ってってくれたから温めてくるよ」
「はい…。あ、でも…」
「少しでいいから食べなさい。そしたらまた薬飲んで眠るといいよ」
「おいしゃさん…」
「午後の診察が3時半からだから、歩けそうなら連れて行くってお母さんが。無理そうなら、僕が抱っこで連れて行こうか?」
「うっ…、ううんっ」
首を横に振ると、頭がクラクラした。
先輩はちいさく苦笑するとごめんねって、目を回す俺の頭を撫でてくれる。
「じゃあ、ちょっと待ってて」
俺が飲んだペットボトルの蓋をキュッて閉めると、先輩はもう一度優しい手付きで髪を撫でて、部屋を静かに出ていった。
その背中をボーッと見送って、なんで先輩が居るんだろう…って考える。
もう学校終わった時間?
あー、でも3年はもう授業無いから自由登校なんだっけ…。
いま何時?
枕元のスマホを手繰り寄せる。
12時半。母さんは職場のファミレスに行けたんだろうか。
なんだかんだ俺のこと大好きだもんな。
子供が熱出したから休ませろ、高校生なら一人でも平気だろ、そんな事で揉めて、店長と喧嘩してなきゃいいけど…
「おまたせ、鈴原君」
熱出したって?大丈夫か?
そんなクラスの友達からの連絡に返事を打ち終わった頃──多分時間にして5分ぐらい──先輩がお盆を手に戻ってきた。
うわぁ…
軽くファンシーな俺の部屋(母さんの趣味)に、ちょっとババ臭い花柄のお盆(貰い物)持った、キラッキラな王子様が居るよー……
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