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第13話
「ふーっ。まだ熱いかもしれないから気を付けて口に入れてね。はい、あーんして」
「あーん、もぐもぐ…」
「おいしい?」
「うん。おいしい」
唇に付いた食べ溢しをティッシュでそっと拭ってくれる王子様…こと七瀬先輩。
優しい笑みはキラキラキラ…さながら月の夜に咲く月下美人。
「きっと、お母さんがいっぱい愛情込めてくれたんだね」
うーん…、そうなのかな?
お母さんの愛情より、綺麗な人があーんして食べさせてくれてるから美味しく感じるんじゃないのかなぁ、なんて。
「ゴクン。…ねえ、せんぱい。なんで起きたらいたんですか?」
食事の途中、やっぱり なんで先輩がうちに居るのかがどうしても気になって訊いてみた。
そしたら先輩は少し焦ったみたいで。
「う…、そうだよね…。昨日知り合ったばかりなのに、いきなりお宅に押し掛けて……ストーカーみたいで気持ち悪いよね」
「う…?」
「……“う”?」
“う”は、熱があって喋るのが億劫で発した ただの相槌みたいなもんだから、聞き返されると困る。
そっとしといて欲しい……
「うちのばしょ、しってたの?」
「あ、ううん。体調崩していないか気になって、1時間目の終わり頃、鈴原君のクラスに様子を見に行ったんだ。そうしたら橋上君って子が休みだって教えてくれて、家の場所訊いて、押し掛けちゃった。
心配でつい来ちゃったんだけど、……ごめんね、迷惑だったよね」
「ん~…?」
「お母さんが帰られたら、すぐにお暇するから」
「んん~??」
「もう一口、食べられる?」
「あーん、もぐもぐ…」
なんだろう…?
先輩の言ってること、よく分かんないや。
「ごくん。…ごちそうさまでした」
「はい、よく食べました。それじゃあ薬飲んで」
「は~い」
包装から押し出して掌に乗せてくれた薬を、蓋を開けて渡してくれたペットボトルの水で飲み込む。
「じゃあ、また寝ようか」
「せんぱい」
「なに?」
「パジャマかえる。ぬがして」
「着替えたいの?ええと…、着替えは」
「そこぉ」
「ここかな?……あった。
蒸しタオルで拭いてから替えた方が良いよね。タオルは何処にあるか分かる?」
「う~…、おふろ…?」
「お風呂だね、分かった。取ってくるから、脱がずに布団被って待ってるんだよ」
「はぁ~い」
お盆を手に部屋を出ていく先輩を見送って、回らない頭で考える。
先輩のなにが迷惑なんだろう?
どこが気持ち悪いの…?
あんなに綺麗なのに……
わかんないや。
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