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第20話
唐突にあきくんの声音が窘めるようなものに変わった。
なんだろう?俺、変なコト言った?
見下ろした先では、あきくんが園児を叱る幼稚園の先生みたいな顔して俺を見てる。
「なに?」
「なに、じゃないの。恋人がいるのに、他の男をベッドに誘うのは間違ってるでしょう。他意がないとは言え」
「あっ…」
そうか。俺、あきくんに言ってなかったっけ。鞍馬と別れたこと。
ハッと思い出してその事を告げると、あきくんは目を瞬かせて「いつの間に…」と呟いた。
「昨日、あきくんと別れてすぐ、話しに行ったんだ」
「……行動力あるね」
変な返しはその表情が表す通り、ビックリしてるからかな。
「雪の中で頭が冷えたからってのもあるかもしれないんだけど。あきくんと話したお陰でね、俺、鞍馬とすごく冷静に向き合えたんだ。
今までは頭に血の昇った状態で、もう嫌だ、別れる…って、キレてたばっかりで気付けば言いくるめられてたんだけど、」
言いくるめられてた、って言うか、「わかったわかった」って抱き締められて、暴れても放してくんないから疲れ果てて、「いちいちくだんねー事気にしてんな。本命はお前なんだから」───で、元通り。
俺に取っちゃ全然くだんねー事じゃなかったんだけどね。
「昨日は言いたいこと、ちゃんと伝えられた。それで、ちゃんと別れられた」
だから、
「ありがとう、あきくん」
繋いだ手をぎゅっと両手で包み込んで、感謝を伝えた。
「そうか。……うん、そうか……」
あきくんは目を伏せて頷くと、そう言って瞼を下ろした。
「後悔…してないんなら、よかった……」
「なんで後悔すんだよ、俺が…。鞍馬 なら兎も角さ」
心底安心したように微笑うあきくんに、思わず拗ねた声が出る。
「……うん。ごめんね」
返すあきくんは、答えを言わずになんでか謝ってくる。
「あのねえ、俺、ありがとうって言ったよ?」
口まで尖らせて不満を伝えると、今度は可笑しそうにクスッて笑われた。
繋いでない手が伸びてきて、指先で尖った唇をプルンッと弾く。
「それなら、次の恋がはじめられる準備は整いましたか?」
「っ───!?」
「昨日、伝えたよね。君が好きだって。君のことを守りたいんだ、って」
身を起こしたあきくんに真剣な眼差しを向けられて───、息が詰まって声が出ない。
言葉で伝える代わりに、首をコクンと頷かせた。
「十碧からも好きだって言ってもらえるよう、これから本気で頑張るから───覚悟してて」
ふわりふわりと蕩けるような甘い微笑 じゃなくて、挑むような眼力の強い微笑みに、ドキンと胸が跳ね上がる。
部屋に貼ってあるポスターのキラキラアイドルよりも、暗がりのこの人の方が煌いて見えるなんて………
俺、もしかしたらはじめから、この人に惹かれちゃったりしてない……?
───いやいやいやっ、そんな事はきっと無いハズ!! 今のナシっ!!
だって、別れる前に他の人に目移りしちゃうなんて、鞍馬とおんなじ浮気モンじゃん!
俺、とんだビッチになっちゃう!
そんな訳がないと自分に言い聞かせ、ドキンドキン煩い心臓は風邪がまだ治りきってない所為にして……
「………覚悟…します……」
何か返される前に電気を消して、俺は慌てて掛け布団を引っ被ったのだった。
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