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第26話
脚をバタバタ、ベッドに転がって一人悶えてると……
「オイ、アンタさ」
鞍馬が一つ舌打ちの後、険のある声を出した。
俺に対して「アンタ」なんて呼び方はしないから、相手はあきくんなんだろう。けど、あきくんに「アンタ」なんて失礼過ぎる!
あきくん相手なら、「貴方様」辺りが妥当だろ!?
「なにかな?」
あきくんも心無しか返す声が硬い。
俺に対してはもっと、溶かされちゃうくらい甘くて柔らかな、包み込むみたいに温かい声で話しかけてくれるのに。
おんなじように鞍馬と話されてもちょっとアレだけどさ。
でも、あきくんのことだから、きっと普段から皆の王子様だもん。
鞍馬の態度が悪いから、気を悪くしちゃったに違いない。
もーーっ!!
さっきと違う意味で脚をバタつかせる。
鞍馬、ゆるさーんっ!!
「アンタ、トアと付き合ってんの?」
「…………。付き合ってはいないよ」
「ハッ、…なんだ。ならいいや」
椅子が軋む音がして、鞍馬が立ち上がったのがわかった。
「トア、取り敢えず帰るわ。また来る」
「はっ!? 来ないでいいよっ!」
「うっせ。見送り来ねぇの?」
上半身だけ起こした俺を見下ろす鞍馬は、……なんでかちょっと淋しげな目をする。
そういう目で見られると………俺 言い過ぎた?とか、ちょっと可哀想かも、なんて……
罪悪感目覚めちゃいそうだからやめて欲しい。
「───行かない。バイバイ」
あきくんの腰に縋るようにぎゅっとしがみつくと、優しい掌が頭を撫でてくれた。
「……ったくよ。頑固だな」
やけに近くで聞こえた声。
襟足をかき上げられたと思えば、項に唇がちゅっと触れた。
それから足音。
ドアが開いて、閉じる音。
キスは、ね。してくれたんだ。鞍馬。
男でも──女じゃなくても、顔は好きだったんだろうな。
匂いも好きって言ってた。甘い香りがするって。
「…………十碧?」
「うん……?」
引っ付いたまま、顔も上げずに返事する。
「僕は、十碧のことが好きです。
ずっと見ているだけだったけど、一昨日、昨日、今日って、…3日間だけだから、十碧の全部は見せてもらえてはいないんだろうけど……、でも、昨日よりも今日の方がもっと好き。どんどん好きになってる」
「ふ…わぁ……、ありがとうございます………」
ストレートな告白に、思わず変な声が出た。
「でも、十碧はまだ、…それよりももっと、僕のことを知らないでしょう?
だからね、十碧と沢山の時間 を過ごしたい。僕のことを知って、そして出来れば、僕のことを好きになって欲しい」
そっと腕を外して、あきくんを見上げる。
真摯な目をして俺を見つめたあきくんは、ややあってベッドから下りて。
「卒業式の日に、返事を聞かせて下さい」
跪 くと、俺の手を取った。
「っ───!」
王子様…っ!!
リアル王子様がここに居た!!
もうねっ、俺には見えちゃってるよ!
白い王子服や冠が!
跪くその足元は編み上げのブーツだよ!!
大輪の花を背負って、キラッキラで眩しいくらい…!!
「オイ、トア!玄関にピザ屋来てんぞー!」
「~~~っっ」
鞍馬のヤツ~~ッ!イイトコで!!
王宮内の背景画が一瞬で崩れ落ちたよ!ガラガラガラってな!
あっという間に四畳半の俺の部屋だよ!マンション内の小さな一室ですよ!!
目の前の王子様も、すっかりシャツにセーターと、って普通の日本人の服装だ。
…まあ、他の人とおんなじもん着てたって、あきくんだけはキレイなキレイな王子様なんだけどね。
「十碧、ピザ取りに行こうか」
あきくんの王子様フェイスが、気が抜けたみたいに ふにゃっと弛む。
「うん、いこっか」
手を引いてくれるから、身を任せるままに立ち上がる。
俺よりちょっとだけ頭半分高い位置にあるあきくんの顔を見上げてニコッて笑うと、ふわりと髪を撫でて笑い返してくれた。
「オイ、トア!聞いてんのか!?」
「っ! もーーっ!鞍馬うっさい!!」
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