28 / 120
第28話
「はぅっ! オネエじゃないっ?!」
第一声は「はじめまして!」だったハズなのに……
予定がだだ狂った!
叫ぶなり固まった俺に、初めましてのあきくんのお兄さんは、あきくんに呆れた顔を向けて。
「玲 、お前 後輩になに吹き込んでるんだよ…」
「うぅん…、そんな説明したつもりはないんだけど…」
オネエなんてとんでもない!!
めっちゃカッコいい人だった!!
弟のあきくんは美形の王子様だけど、お兄さんはイケメンナイトって感じ!
あきくんがホワイトフローラルなら、お兄さんはムスク。
俺には刺激が強すぎます!!
「あ、あの…、はじめまして。鈴原 十碧 です。これ、母から預かってきました、手土産です」
スタートで狂っちゃったけど、気を取り直してご挨拶。
「ああ、ありがとう。玲仁の兄の陽成 です。オネエじゃなくてごめんな」
紙袋を受け取りながら、ニヤリと笑われた。
見た目だけじゃなくて性格も、あきくんとは違うみたいだ。
まあ、そりゃそうか。
あきくんみたいな王子様が二人も居たら どえらいこっちゃ!
「十碧、宿題持ってきた?」
あったかいミルクティーを出してくれたあきくんの、「どうぞ」代わりの第一声。
「う……ハイ…」
昨日やったのとは違う教科。
苦手な数学の宿題もあることを、笑顔のあきくんに「英語の他にはない?」からの、「ん?」とか「で?」の一文字質問で白状させられて。
しょんぼりしながらバッグから教科書とノートを取り出す。
「……こちらでございます…」
あきくんは綺麗な顔でにっこり笑うと、頭を優しく撫でてくれた。
「終わったら、ケーキがあるから ご褒美で食べようね」
「わっ!ほんと!?」
「うん。頑張ったらね」
「うん!頑張るっ!」
勉強の時はちょっと恐いけど、甘やかしてもくれる。
飴と鞭の使い方が絶妙!
一人の時より全然頑張れるもんっ。
※ ※ ※
「十碧、……と~あ」
ウトウトとしていたかと思えば、とうとうローテーブルに突っ伏してしまった十碧に、玲仁 は小さく溜息を吐いた。けれどその目元は優しく細められている。
「寝ちゃったのか?」
「うん」
兄に頷いて返すと、毛布を取ってくると部屋を出ていく。
戻ってくると、十碧の身体にふわりと毛布を被せ、顔を傾けさせた耳の下にそっと折り畳んだバスタオルを差し込んだ。
「最後の一問は起きてからね」
柔らかなその声音だけを捉えているのだろう。頭をやんわりと撫でられると、十碧はふにゃりと嬉しそうに笑った。
言葉の意味まで理解していれば、きっと顔を顰めていただろうから。
「あどけない寝顔だな」
くすりと笑った兄に、玲仁はあからさまに眉を顰める。
「十碧にちょっかい出さないでね」
「出さないよ」
そして陽成 はまた小さく笑う。
「この間まで中学生だった子だろ?」
「高校生になって10ヶ月以上経ってる」
「幼いし、色気が無さ過ぎる。俺の好みは美人系だし」
十碧も美人系だ、と言い返そうと思って、まだ言葉を続ける兄にタイミングをずらされる。
「玲 が、二人きりになると我慢できそうにないから一緒に居てくれって言うから、どんなムンムンのDK連れてくるのかと思ったら、この 仔にゃんこ系だもんなぁ」
「仔にゃんこって…」
「この子の何処に色気を感じるの?玲は」
ふにふにとした頬を突付こうとした兄の指を、弟がムッとした表情をして軽く払い除ける。
身内でなければ分からないその僅かな変化と 彼にあるまじき乱暴な態度に、陽成はまた楽しそうに笑みを溢した。
「十碧は綺麗だよ。今は可愛いの方が勝ってるけど、将来は誰もが振り返る美人になる。そうなっても兄さんにも、誰にも譲る気はないけどね」
「うん?まだ付き合えてもいないのに?」
「…………うるさい」
兄相手にはなかなか勝てず、つい反応が幼くなってしまう玲仁である。
「一昨日は、二人きりでも十碧の具合が悪かったから気持ち的にそれどころじゃなかったし、昨日は十碧のお父さんがずっと居てくれたから」
「居てくれたって…。迂闊に手を出して嫌われたくないからってことなら、平気じゃないか?お前の気持ちを知りながら、こんなに懐いてる訳だし」
無防備に寝息を立てる十碧を見やって、陽成が肩を竦める。
玲仁はそっと首を横に振ると、
「こんなに懐いてくれてるからこそ裏切れない。付き合う前に、手なんて出せないでしょう?」
微笑んで、愛しそうに十碧の艶やかな髪をサラサラと撫でた。
ともだちにシェアしよう!