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第30話
結局その日は、あきくんに送られて家へ帰った。
ダメって言われて、なんで!?って一応は駄々こねてみたんだけど……
「十碧と二人で夜を過ごしたりなんてしたら、暴走しちゃいそうで自分が恐い。だから、そんな顔して誘わないの」
掌でやさしく頬を撫でられて、「ね?」なんて困った顔向けられたら……
襲ってもいいのに…、なんて軽口も叩けない。
昨日は俺の家で両親 も居たし、我慢できたんだって。
でも此処は自分のテリトリーで、親も居ないから。
泊めたくない体 のいい言い訳じゃなくて、ほんとにそう思ってくれてるんだって分かったから。
俺は素直にあきくんに従うことにした。
俺のこと、恋愛対象として見てくれてるのが嬉しい。
暴走しちゃっても別にいいんじゃないかな?って思うのは、もうあきくんのこと好きになってるから? それとも、好きって言われて調子に乗っちゃってるから?
それが分からないうちは、俺は軽々しく、抱いてもいいよ、なんて言っちゃいけないんだろう。
ここまででいいよって、あきくん家の玄関で別れようとしたら、少しでも長く一緒に居たいから家まで送らせてって言われた。
一緒に居たいのはおんなじだから、ここでも素直に頷いた。
でも、持つよって言ってくれたバッグは頑なに渡さずに。
あきくんは「頑固」って俺のほっぺをツンと突付いて ふんわり笑った。
そして翌日、月曜日 放課後。
俺を泊まらせずに帰らせた罪悪感からなのか、放課後デートしようと誘ってくれた あきくん。
「正門まで迎えに行くね」
大輪の花を背負い星をキラッキラ飛ばしながら、またね、と頭を撫でてくれた王子様の姿が脳裏から離れずに、俺はどうやら一日中ニヤケっ放しだったらしい。
「……今日の鈴原だいぶヘン。なんか良いことあった?」
「宝くじでも当たったのか?」
「童貞切った?」
「処女喪失した?」
「えっ!? 俺まだ十碧に手ぇ出してないけど!?」
「なんでお前だよ。鈴原にだって選ぶ権利あるだろ。もしかして可愛い彼女が出来たのかも」
「それでとうとう童貞を……、いやっ!十碧が襲う方とか想像つかんっ!!」
クラスのヤツらから、ここぞとばかりにイジられた。
処女…はそのうち喪失するかもね。
童貞はさ、俺バリネコだと思うから、30歳で妖精化決定してんだわ。そこはまあ、既に承知済みだからツッコまれたとこで痛くも痒くもないのだよ。イジり損で残念だったな。
ただ『想像つかん!』ってのには男としてちょろっと腹が立ったから、ソイツの後頭部一発ぶん殴っておいた。
ドゴッ!ってイイ音がした。カランッて言うかと思ってた。
「なあ、俺 今日部活休みだからどっか寄ってかない?カラオケとか!」
ホームルームが終了するやいなや、後ろの席の西野がいつもに増して騒がしく、背中をツンツン突付いてきた。
ちなみに、さっき「想像つかん!」とか言ってた失礼なヤツが西野だ。
「行っかな~い。俺、これから放課後デートだもん♪」
「はっ、デート!? 笹谷先輩とか!?」
「なんで鞍馬だよ! あきくんと、…3年の七瀬先輩、って分かる?」
「七瀬先輩…だと───!?」
隣の関がオタクリアクション全開で乱入してくる。
顔は悪くないのに残念なヤツだ。俺的には面白いからいいけど。
ちなみに関の顔面偏差値が中の上から上の下なら、西野は中の中。顔濃いめだから、モブって言うには目立ち過ぎちゃうけど。
あきくん? あきくんは当然、神の中の神でしょう!
「七瀬先輩って、あの麗しの!?」
「はっ!まさかあの有名な王子様か!?」
「うん。あの、キラッキラの王子様!」
ふふ~。やっぱりあきくんって、誰から見てもアイドル顔負けの王子様なんだ!
しかも有名な!
ほんとなんで俺、あきくんのこと知らなかったんだろな。
「正門で待っててくれてるから急がなきゃだから、俺。つ訳で、ばいばい!」
「おー。鈴原、またねー」
「十碧~!カムバ~~ック!!」
「西野ウルセーッ!」
バコッ!!
あ、西野また誰かに殴られた。
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