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第34話

ファミレスの後はカラオケボックス。 「1時間!」 「3時間!」 「おい、受付で揉めるんじゃない。迷惑だろう」 「じゃあ間を取って2時間にしようか」 利用時間で言い合ってた俺と西野をやんわりと治めて、あきくんが受付に「2時間でお願いします」って伝えてくれる。 受付のお姉さんは多分に漏れず、笑顔の美形にぽぉーっと頬を赤く染める。 むー…… その人、俺の王子様っ! それに、その笑顔はただの愛想笑いで、俺に向けてんのが心からの笑顔だもん! 勘違いして見惚れてんなよっ! 「あきくんっ!」 関が「J○YSOUNDで」なんて勝手に機種を決めてる隙に、あきくんの腕にぎゅっと引っ付いた。 「どうしたの?十碧」 どうしたのも何もない! 俺以外のやつに愛想振り撒いたりしちゃダメじゃんか! 『僕のことを知ってもらって好きになって欲しい』ってのは、俺だけに向けた言葉じゃないのかよ!? 世界中に向けたメッセージだったの!? 「あきくんは、みんなのあきくんになりたいの?」 拗ねてることを隠すこともせずにむくれ顔で問い掛ける。 先頭切って意気揚々と歩き出した関に続いて、俺を腕に引っ掛けたままエレベーターに乗り込んだあきくんは、 「十碧だけのあきくんでいたいかな」 俺の頭に手を置くと、顔を覗き込んでふわりと微笑った。 「ほんと「七瀬先輩!はい、質問!」に…って、バカ西野っ!邪魔すんな!」 まだ拗ねてます。甘やかして慰めてくださいアピールの途中だってのに、わざわざ手を上げて身を乗り出した西野により、甘い雰囲気のバックグラウンドがビリビリと破かれた。 空気読め西野ぉおっ!! 「先輩と十碧ってもしかして、付き合ってんスか?」 しかもなんだ!その質問は!! 「あー…、付き合ってはいないかな」 「マジスか!っしゃ!」 なんで喜んでやがるコロスぞ西野ォッ!! 「だけど微妙な時期だから、そっと温かく見守っててくれるかな?」 「………ウス」 なんで今度は不満気なんだよ! エレベーターが目的階に着いて、扉が開く。 ハッシーが開くボタンを押してくれてる間に廊下へ降りた。 また関が先頭で個室を目指す。 どうやら関は、カラオケが楽しみで気が急いて仕方ないようだ。 「十碧、笹谷先輩とはどうした。別れたのか?」 最後にエレベーターから降りたハッシーが後ろから耳元へ、俺にしか聞こえない声量で訊いてきた。 ……つか、つかさ!なんでハッシーまで知ってんの!? 俺、中学の仲間たちにも言ってないじゃん、鞍馬と付き合ってますとか、ました、とか。 なんでバレてんの!? 鞍馬か!? あいつ、俺の友達連中にも付き合ってるとか暴露しちゃってたの!? 「………別れました」 「──そうか…。うん…」 おおっと?なんでかハッシーに頭撫でられたぞ!? 「今度は上手く行くといいな」 「っっ!?」 だからハッシー、俺の事情ドコまで知っちゃってんの~~っ!?

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