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第36話
みんなと別れてあきくんの家へ向かう途中。
不意に気付いたその途端───唐突に頭をガツンと殴られたみたいなショックを受けた。
心臓がバクリと音を立て、そっからこっち、ドクドクと騒がしく跳ねまわってる。
頭に変に熱が上がって、顔が熱くなって……
歩くこともままならなくなって、俺はとうとう足を止めた。
「十碧、大丈夫?具合悪い?」
隣で一緒に立ち止まったあきくんが、気遣わしげに顔をのぞき込んでくる。
うぅ……、今は見ないで……
両手で顔を覆い隠す。
だって俺、あきくんの前で気付かないままに、結構な痴態を晒しちゃってた───!!
いや、痴態じゃないか。違う言い方……、あ!アレだ!
その振る舞いたるや、正に横行闊歩!! ドーン!!!
それは普段から普通にやってることで、別に見られても困ることじゃないんたけど…っ!
でもっ!
あきくんにだけは見せちゃいけなかった……
あれはダメだ……
俺、絶対 暴君みたいに思われた!
「あきくん…、俺っ……」
今にも倒れそうな力の入らなくなった体を文句も言わずに支えてくれる優しい王子様。
そんな人の前で、『対 西野の俺』はダメだろぅ……あぁぁ………
「……幻滅…されましたか…?」
疑問形だけど、ほぼ確定。
だって、何度鞍馬に浮気されても泣いて許してきた健気な俺を守りたいって、そう言ってくれてんだよ?あきくんは。守りたいって!
あんな、西野を人とも思わずにバカバカ言ってる暴君っぷりは、見せちゃダメだろ。いくら西野相手だからって言って……うぅ……
あんな男、俺なら 守りたいなんて欠片も思わない。
「どうして?」
「どうしてって…」
それを本人の口から聞きたいですか。
あきくんも意外とSっ気あるんすね…。
「……だって俺、可愛くなかった…」
「えっ?十碧は可愛いよ?」
「えっ?」
「え?」
「え……ぇえ?」
あれ?これ、……あきくん全然気にしてないっぽい??
「え、だって、俺 口悪くなかった?」
「ああ…」
軽く詰め寄ると、思い出したように苦笑い。
「あきくんの前と、…ちょっと違う」
「うん。ちょっと違う」
だって、あきくんの前だとなんか……
意識的にかわいぶってる訳じゃないんだけど、ついつい甘えてしまうと言うか、幼くなってしまうというか……
「でも、驚いてはいないから安心してね。知ってたから」
「っ──知ってたの!?」
なんですと!?
西野から不本意ながら『ハートの女王』と呼ばれる、「(主に西野の)首を刎 ねよ!」な俺の姿を!?
知ってたの!?
「十碧の事はずっと、気になって見てたって話したでしょう?
だから、西野君の扱いがアレなのも、橋上君に全幅の信頼を寄せてることも、もっと言えば笹谷に対しても口が悪いことも、実は結構知ってます」
「えと…、それじゃあ、俺が暴君なのも知った上で……」
「知った上で、十碧のことが好きだよ」
「っっ───~~~///」
両手で俺の手をぎゅっ、て。
少し照れたみたいに ふにゃって微笑って。
「十碧のことが好きです」って、もういっかい。
~~悶える…っ!これは悶えちゃうよぉっ!
両手握られたら顔が隠せないっ!!
さっきと違う羞恥で顔が熱い~~っっ!!!
「だから安心して、僕の好きを受け止めてね」
おでこにおでこをコツン…って。
綺麗なお顔がやけに近付いて、優しい香りがふんわり漂う。
ふわぁ…、思わずスンスンしちゃう。
互いの顔を見ようとすれば 目が寄っちゃうくらいの近くでクスリと笑うと、
あきくんは、「よしよし」って言いながら俺の頭をくしゃくしゃ撫でた。
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